利益が1億円出ていても、銀行に詰められた
ある会社の再生に関わったときの話です。
その会社は、10年にわたって決算書を粉飾していました。実態を調べると、実質の債務超過は35億円。銀行は、借入金の一部を返済の順番が後回しになる形に切り替え、残りを10年かけて返していく再生計画を組みました。関わる金融機関は、8つにのぼりました。
再生計画には、毎年の利益の目標が書かれています。この会社の目標は、税引き後で2億数千万円でした。
私は毎月、社長と専務と一緒に銀行へ行き、計画の進み具合を報告していました。
社員の意識が変わり、会社は利益を出せるようになっていきました。何年も赤字が続いていた会社が、年に1億円を超える利益を出すところまで来たのです。
それでも、銀行の場は甘くありませんでした。
担当者は穏やかでした。厳しかったのは、本部の経営企画室長です。
「なんで、計画を達成しないんだ」
「どうやって、足りない分を取り戻すんだ」
毎月、この繰り返しでした。
社長も専務も、必死に答えようとします。しかし、数字の筋道で返すことができません。「受注を増やします」「頑張ります」。そう答えるたびに、相手の表情は硬くなり、二人はどんどん萎縮していきました。私はその姿を、すぐ隣で見ていました。
何年も赤字だった会社が、1億円を超える利益を出している。普通に考えれば、大きな前進です。しかし銀行にとっては、1億円でも2億円でも関係ありません。計画を下回っている。それがすべてです。
室長が厳しく詰めたのは、意地悪ではありません。この会社を、本気で潰させないためです。
銀行が知りたいのは、「よく頑張った」ではありません。「計画との差が、いくらあるのか。その差を、いつまでに、何で埋めるのか」。そこを数字で答えられなければ、どれだけ利益を出していても、信用にはつながらないのです。
これは、私が支援先で使う「利益先行管理」の考え方と同じです。目標と今の実績の差を数字で出し、その差をどう埋めるかを決める。室長が聞いていたのは、まさにそこでした。
この会社が35億円の債務超過から立ち直るまでの10年は、小冊子にまとめています。
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銀行の担当者が、一番よく言うこと
銀行の担当者から一番よく言われたのは、「出した経営計画書のとおりに、実行してくれ」という言葉です。
言い方を変えれば、「借りたお金を、利息と合わせて、約束どおり返してくれ」ということです。
銀行にとって、経営計画書は「お願い」ではなく「約束」です。そして、その約束が守られるかどうかを、毎月の試算表や報告で確かめ続けます。
では、銀行が信用する計画書とは、どんなものか。
この会社で作った計画書には、次のようなものが入っていました。
- 過去15年分の損益の推移
- 事業部ごとの売上と原価の計画
- 貸借対照表の計画と、実質の債務超過がこれからどう減っていくか
- 金融機関ごとの借入残高と、返済の計画
- 人員と設備投資の計画
- そして、来期に完成する予定の工事を1件ずつ並べた一覧
この最後の一覧が、一番大事です。工事ごとに、受注金額、材料費、外注費を並べ、1件1件の利益を積み上げて、来期の利益を出しています。
「売上を増やします」という願いではありません。「今、この工事を受けていて、ここで売上が上がり、ここで原価がかかる。だから来期の利益はこうなる」。今ある取引の数字から、未来の数字を組み立てた計画です。
銀行に、毎月見せていた表
計画を下回っても、社長が数字で答えられるようにするために、私たちは毎月ひとつの表を作り、銀行に見せていました。利益先行管理の考え方で作った表で、私は「CCS」と呼んでいます。
表には、受注している工事を1件ずつ並べます。工事ごとに、受注金額と、材料費・労務費・外注費の予算、見込みの利益を書きます。その横に、すでに確定した数字と、まだ仕掛中の工事の見込みを並べます。
そして、工事ごとに「予算より利益が増えたか、減ったか」と、「その理由」を書き込みます。追加工事が入って受注金額が増えた。数量が減った。原価が予算を超えた。こうした理由を、1件1件に書いていきます。
最後に、すべての工事を合わせて、「今期は、いくらの利益で終わりそうか」を出します。
この表があると、毎月、今期の着地が見えます。計画との差がいくらあるのか。その差は、どの工事から生まれているのか。どこで取り戻せるのか。社長も、専務も、管理職も、同じ表を見て話ができるようになります。
銀行の前でも同じです。「頑張ります」ではなく、「この工事で原価が予算を超えたので、計画との差はこれだけです。この工事とこの工事で、ここまで取り戻します」と、数字で答えられるようになりました。
この表は、銀行の中でも「CCS」と呼ばれるようになり、定着していきました。
会社はこの表を使って利益先行管理を続け、少しずつ改善していきました。
銀行の見方は、2019年に変わった
ここからは、銀行が会社のどこを見ているのかを、もう少し広くお話しします。
2019年12月、銀行の融資の物差しだった「金融検査マニュアル」が廃止されました。それ以来、銀行はそれぞれ独自の基準で、融資先を見るようになっています。
それまでの銀行は、次のような見方をしていました。
- 担保や保証人を重く見る
- 会社の将来より、過去の決算書の数字を重く見る
- 事業の中身より、格付けの点数で決める
これからは、次のような見方に変わっています。
- 会社の実際の中身を見る
- 経営計画で、会社の将来を見る
- 決算書に載らないもの(技術力、販売力、組織の力)まで含めて、全体を見る
「突然、支店長の態度が変わった」「理由も言われずに融資を見送られた」という相談が増えたのも、この変化と無関係ではありません。
銀行が見ている「数字」
1. 返せる資金計画になっているか
銀行が喜びそうな計画ではなく、本当に返済ができるお金の流れで、計画が立てられているか。
2. 会社の本当の体力
銀行は決算書の数字をそのまま見ません。回収できない売掛金を外し、土地や有価証券は今の値打ちに置き換えて、貸借対照表を作り直します。作り直すと、債務超過になる会社もあります。
3. お金がどこへ消えたか
銀行は3期分の決算書を並べて、現金が増えた・減った理由を探します。理由はおおむね3つです。
- 運転資金(売掛金を早く回収できているか、支払いはどうか)
- 設備などに使ったお金
- 赤字
現金が減った理由が、このどれなのかを見ています。
銀行が見ている「数字以外」
1. 経営計画が、会社の将来を本当に示しているか
銀行には会社ごとの取引ファイルがあり、出した資料だけでなく、担当者が訪問したときのメモまで残っています。新しく出した計画が、過去の資料と食い違っていないかを照らし合わせています。
2. 社長の姿勢と、組織の実態
担当者は会社を訪れたとき、社長の様子だけでなく、従業員の態度も見ています。社員との雑談から、組織の実態を探っています。
3. 関連会社とのお金の流れ
関連会社があれば、お金がどう流れているか、不自然な動きや粉飾がないかを見ています。
最後に見ているのは、社長が本気かどうか
数字が悪くても、銀行が支えてくれる会社と、見放される会社があります。その違いに、明確な答えはありません。
ただ、私が見てきた中で言えるのは、社長自身が真剣にやっているかどうかです。真剣にやっている社長は、顔に出ます。必死さが伝わります。そして、悪いときほど、自分から銀行へ相談や報告に行きます。
税理士任せの試算表を持っていくだけでは、銀行は本気にならない
税理士が作った試算表を持っていき、「今月はこんな感じです」と渡す。それだけの社長に、銀行は表面上は対応しますが、本気にはなりません。
私が社長に準備させるのは、次の2つです。
- 自分の会社の数字を、社長自身が説明できるまで理解すること
- 未来の数字の裏付けになる資料を作ること
未来の数字といっても、願いや思いつきではありません。「今、こういう取引があり、売上はここで上がり、お金はここで回収し、支払いはこれだけある。だから、この先の数字はこうなる」。今ある具体的な取引をもとに、先の数字を示す資料です。先ほどの工事の一覧やCCSが、まさにそれです。
私が社長に代わって経営を担った会社では
社長が病に倒れた会社に、私が外部取締役として入り、社長に代わって経営を担ったことがあります。入ったとき、銀行はすでに貸しはがしの最中でした。
この会社では、受注一覧表(場所、受注先、数字、納期、入金の時期)、資金繰り表、利益先行管理の表を、2週間に1回、銀行に説明し続けました。そして少しずつ、信用を取り戻していきました。詳しくは、リスケの記事に書いています。
銀行は「数字」と「本気」を見ている
融資が決まったあとも、銀行は、出した計画が本当に実行されているかを見続けます。
数字の準備と、本気の姿勢。この2つがそろって、はじめて銀行は会社を信用します。
銀行とどう向き合えばいいか迷ったときは、ご相談ください。ご相談は無料です。
※会社が特定されないよう、一部の設定を変えています。
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この記事を書いた人
川原一紀(株式会社マネジメントオフィス・K 代表取締役)
名古屋を拠点に、2008年の創業以来、研修・経営指導・診断調査などで延べ3,000社以上を支援。資金繰り改善、事業再生、事業承継、組織づくりを、現場に入って支援しています。
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