
経営の現場で、「強く言う」と「決断する」を混同している経営者がいる。
社員に対して厳しい言葉を投げかけることはできても、
本当に向き合うべき問題には、どこか腰が引けてしまう――。
私はこれまで、建設業を中心に多くの中小企業の経営者を見てきたが、
そういう意志薄弱なリーダーが会社を崩壊させる瞬間を何度も目の当たりにしてきた。
社長の優柔不断が生む“無言の空白”
ある建設会社の社長――仮にA社としよう。
その社長も、まさにその一人だった。
普段は温厚で、社員想い。
だが、日常の現場にはあまり顔を出さず、
重要な話は「会議の場」にならないとしようとしない。
会議がなければ現場の実態を聞かず、
社員もまた、社長が聞かない限り報告しない。
その結果、会社の中には“無言の空白”が広がり、
資金繰りや現場管理など、重要な情報が表面化しにくい組織になっていた。
下請けトラブルが招いた資金繰りの悪化
あるとき、そのA社で大きなトラブルが起きた。
社長が下請け業者に仕事を発注したところ、
その下請けがさらに別の業者に再発注をかけていたのだ。
私は念のためこう伝えた。
「下請けの発注は問題ありませんが、管理はしっかりしてくださいね」
社長は「わかりました」とうなずいた。
だが、その“わかりました”は、いつも通り言葉だけの返事にすぎなかった。
結果は最悪だった。
下請けが、別会社に工事代金を支払わず、姿を消したのだ。
当然、孫請けとなった業者は支払いに困り、
その怒りの矛先は発注元であるA社に向かった。
最終的に、A社が支払いを立て替えざるを得なくなり、
資金繰りは急速に悪化した。
お金は戻らず、会社は今もその傷を引きずっている。
経営者の意志の弱さが引き起こす連鎖
この出来事の本当の原因は、「下請け管理不足」ではなく、
「経営者の意志の弱さ」にあった。
社長は、社員や取引先に嫌われることを恐れ、
確認すべきことを後回しにし、注意すべき場面でも“波風を立てない”選択をしてしまった。
その優しさは、結果として会社を傷つける刃となったのである。
建設業では、特に資金繰りや現場の管理が崩れると、
影響は一瞬で連鎖する。
小さな判断の遅れや見て見ぬふりが、
やがて社員の信頼を失い、組織の信頼を揺るがす。
経営者が現場に関わらず、決断を避けていると、
会社は静かに、しかし確実に崩壊の道をたどる。
経営とは、決断の連続である
経営とは、決めることの連続である。
時には厳しい判断を下さなければならない。
時には社員を叱らなければならない。
それでも、会社を守るために必要な“決断”から逃げてはいけない。
優柔不断なリーダーのもとでは、社員は何を信じればよいのか迷う。
組織は、トップの決断の遅れを敏感に感じ取り、
信頼は静かに崩れていくのだ。
真の優しさとは、責任を取ること
人は「優しさ」を装うとき、しばしば「責任」から距離を取ろうとする。
しかし、本当の優しさとは、問題から目をそらさないことである。
たとえ相手に嫌われようとも、
組織を守るために厳しく伝える勇気を持つこと――
それこそがリーダーの覚悟であり、
会社を崩壊から守る唯一の手段である。
あの社長は、今も社員に慕われている。
だが、その慕われ方には少し影がある。
「社長は怒らない」「社長は何も言わない」
――それは尊敬ではなく、静かな諦めの表情だ。
社員は言葉にしないが、リーダーの“意志の薄さ”を敏感に感じ取っている。
意志薄弱なリーダーが会社に与える影響
経営者の意志が揺らぐとき、組織は静かに崩れ始める。
崩壊の始まりは、怒号でも混乱でもなく、
小さな「見て見ぬふり」からだ。
その一度の判断の遅れが、やがて信頼を奪い、
信頼の欠落が、資金や人を奪っていく。
建設業で働く経営者にとって、社員や取引先との信頼は、
資金や契約以上に大切な財産である。
優柔不断な舵取りは、会社を静かに座礁させる。
「言いにくいことを言う」
「見たくないことを見る」
その積み重ねこそが、会社を支える土台になる。
社長が沈黙した瞬間、会社の声は止まる。
そして、会社が沈黙したとき、崩壊はすでに始まっているのだ。
経営者の責任と決断の重要性
経営者とは、嵐の中でも舵を切る存在である。
どれだけ風が強くても、
進むべき方向を示すのがリーダーの責任だ。
建設業の現場でも、決断の遅れや管理不足は、
資金繰りや社員信頼、組織の安定に直結する。
だからこそ、経営者は日々、勇気を持って決断し、
優柔不断に流されない覚悟を示さなければならない。