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先代が口を出す会社では、後継者は育たない――会長の一言で、3か月の改善が止まった日

先代が口を出す会社では、後継者は育たない――会長の一言で、3か月の改善が止まった日

「会長が、まだ全部決めているんです」

事業承継の相談で、私が何度も聞いてきた言葉です。社長の椅子は譲った。けれど、決めるのは今も先代。社員もそれを分かっているから、社長ではなく先代の顔を見て動く。

今日は、私が実際に見てきた2つの会社の話をします。1つは、私が改善に入っていたホテル。もう1つは、セミナーに来られた商社の社長です。

この記事の結論:先代が口を出しているかぎり、社員は後継者ではなく先代の顔を見て動きます。後継者を育てたいなら、先代は口に出さず黙って見守り、後継者が前に立てる組織を先代が元気なうちに作ることです。

朝6時の会議に、会長が入ってきた日

ホテルを2軒運営している会社でした。すでにリスケ(返済条件の変更)をしていて、社長と常務は銀行から来た方でした。創業者である会長は相当なご高齢で、歩く姿はもう、おじいちゃんそのもの。それでも社内の誰もが、会長に一目置いていました。

私はまず、パートさんから社員まで全員の面談とアンケートを行い、研修で意識をそろえました。そのうえで、月2回、朝6時からの会議を始めました。

3か月たつころには、社員が自分たちで動き始めていました。

  • フロントは、ただ受付をするのではなく、リピーターになってもらうために一言のメモを添える
  • お金はかけられないので、自分たちで直せるところは自分たちで修理する
  • 和食も洋食も、コストと料理そのものを見直す
  • 併設のスポーツセンターを、宿泊客だけでなく地域の方も使えるようにする
  • ホテルの商品券を、パートさんから社員まで全員で販売する(売った人に1割を還元)

誰かに言われてやるのではなく、「何かできないか」と自分たちで考えて出してきた改善です。

その日の会議の途中、会議室のドアが開き、会長が入ってきました。

その姿を見た瞬間、支配人と副支配人がさっと立ち上がり、深々と頭を下げました。それを見た幹部たちも、あわてて立って頭を下げました。

会長はひと言、「何をやっているんだ」。

支配人が「会議をしていました」と答えると、会長はこう言いました。

「会議なら、おれがやってやる」

そう言い残して、会長は静かに部屋を出ていきました。支配人と副支配人は、そのあとを追うように会議室を出ていき、二度と戻ってきませんでした。

残った幹部で、その日の会議はひとまず終えました。終わったあと、私は「会議は、これで最後かもしれません」と伝えました。幹部たちから、落胆の声がもれました。

その後、社長は「これはダメだ」と言い、社長も常務も退任しました。常務から「川原さん、どうしますか」と聞かれ、私は「口を挟まれると、何もできません。契約を終了しましょう」と答えました。

3か月かけて社員が自分で動き始めた改善が、会長のたったひと言で止まったのです。

60歳で社長になったのに、すぐ次の承継を考えなければならない

もう1つは、北陸の建設資材を扱う商社の社長です。売上は数十億円、社員もそれなりにいる会社でした。

この社長が社長になったのは、60歳のとき。会長が社長から会長になるための、いわば体裁だったのでしょう。

社長の悩みはこうでした。

「60歳にもなって、会長が口を出す。組織全体が、社長の私より会長を見ている。決裁は全部会長。部下も私を飛び越えて、会長のところへ行く。昔ながらの組織も体制も変わらない。このままでは、社長になったばかりなのに、もう次の事業承継の準備をしなければならない」

会長に話をすると、怒り出す。どうしようもなくなって、私のセミナーに来られたそうです。

実際に会社へ伺うと、社長の存在感はありませんでした。応接室で社長と話している間も、隣の部屋から会長らしき人の声がずっと聞こえていました。

私は「会長と話をさせてください」と申し出ました。社長は、話をしてほしいと思っている。けれど、私の提案には踏み出せない。結局、契約には至りませんでした。

社員は「誰が決めるのか」を見て動く

2つの会社に共通しているのは、社員が悪いわけでも、社長に能力がないわけでもない、ということです。

社員は、「最後に誰が決めるのか」をよく見ています。先代がひと言で物事をひっくり返せる会社では、社員は社長ではなく先代の顔色を見て動きます。それは社員として、当然の判断です。

だから、先代が口を出しているかぎり、後継者がどれだけ頑張っても組織はついてきません。改善を始めても、先代のひと言で止まります。

「後継者がいない」とよく言われます。けれど私が見てきたかぎり、子どもは継ぎたいと思っていても、こういう組織を目の当たりにして「継ぎたい」と思えなくなっている。そういう会社が少なくありません。

先代には「黙って見ていてくれ」と言う

先代が年をとっても仕事をしたい気持ちは、よく分かります。会社を育ててきたのは先代です。

けれど、人は年をとると、動きも考え方も鈍くなります。先代が口を出し続ければ、人は育たず、組織も回らなくなる。困るのは、あとに残された人たちです。

だから私は、先代にはっきり言います。

「後継者を立派に育てたいなら、口に出さず、黙って見ていてください」

先代が口を出すたびに、後継者は成長の機会を失います。

後継者には「もっと苦労せよ」と言う

一方で、後継者にも言います。「もっと苦労しなさい」と。

ここで言う苦労は、仕事を覚える苦労ではありません。リーダーになるための苦労です。後継者に一番大事なのは、業務を覚えることよりも、人の気持ちが分かることです。人の気持ちが分からない人間に、上に立つ資格はありません。

あらゆる問題に、後継者が自分から挑む。会議でテーブルに上がった問題に、後継者が前に立ち、幹部と一緒に当たる。その積み重ねで、社員は少しずつ後継者を見るようになります。

本当の問題は、先代がいなくなったときに出る

古参社員の問題が本当に表に出るのは、先代が亡くなったときです。そのとき古参社員は、後継者を支えるか、辞めるかの二択を迫られます。

そのときになって慌てても遅い。だから、先代が元気なうちに、後継者が前に立てる環境を早く作り、幹部社員が後継者を支える形に整えておく必要があります。

先代の方へ。今、会議に顔を出していませんか。

後継者の方へ。決めるべきことを、先代に預けていませんか。

幹部の方へ。社長を飛び越えて、先代のところへ行っていませんか。

ひとつでも当てはまるなら、手を打つのは今です。

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この記事を書いた人

川原一紀(株式会社マネジメントオフィス・K 代表)。2008年の創業以来、名古屋を拠点に全国の中小企業で、資金繰り改善・事業再生・事業承継・管理職育成を支援。研修・経営指導・診断調査などで延べ3,000社以上に関わる。

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