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家族経営の光と影――兄弟も夫婦も、会社を伸ばす絆と衰退させる確執

最近、ある会社の役員、45歳の男性から相談を受けた。
話を聞くと、近いうちに父親が会社を退き、この男性が社長に就任する予定だという。社長になること自体は喜ばしい話だが、問題は同じ役員に弟がいることだった。

かつては仲の良い兄弟だったが、今では相談者のやることに反発し、陰で「兄貴より俺を社長にしてほしい」と現社長に働きかけることもある。
相談者は「父が退いた後、社長になったとき、どう対応すれば会社も家族関係も壊さずに済むのか」と悩んでいた。

現時点では現社長がまだ会社にいるため、具体的な行動は先送りになったが、こうした家族間の確執は、兄弟経営や家族経営における光と影を象徴している。

実際に経験した話(事例)

これは、ある金融機関からの依頼による事例だ。会社は製造業で、従業員は40名ほど。兄弟で事業を切り盛りしており、兄が社長、弟が常務という体制だった。兄は営業に強く、弟は技術力に優れていた。

金融機関としても業績は安定しており、安心して融資をしていた。しかし、会社の代表である兄が亡くなった後、業績は徐々に悪化していった。金融機関は、営業力のあった兄がいなくなったことが原因だと考え、弟が兄の後を継いで社長になれば業績は回復すると期待していた。

ところが、弟が社長に就任しても、業績は一向に回復せず、それが5年間も続いた。金融機関としては格付けを下げ、運転資金の融資も控える方向に切り替えざるを得なくなった。長年付き合いのあった会社だけに、何とかしたいという思いから、私(川原)に経営指導の依頼が来たのだ。

現場に入ってみると、利益が出ない構造が見えてきた。会社の中には、先代社長(兄)の奥さん、娘、娘婿、そして弟(現社長)の息子がいた。問題があるわけではないが、弟の行う決定には文句ばかりが飛び交い、娘も母親に便乗して批判する始末だった。

弟は技術者であり、仮に機械が壊れても自分で直す。無駄な経費は使わない。しかし、売上は下がる一方で経費は減らない。その理由を調べると、前社長時代に経費の一部が前社長個人の口座に入るようになっていた。合法的なやり方ではあるものの、家族内で弁護士を立てて対立していたため、会社の資金が適切に回らない状況だった。

最終的に、前社長の奥さんには会社の事情を説明し、資金を会社に回すことはでき、また営業先も拡大ができた。しかし、この経験から明らかだったのは、家族経営では「お互いに協力し合わなければ、会社に未来はない」ということだ。

成功する家族経営の特徴

家族経営がうまくいく会社には共通のパターンがある。

  1. お互いを認め、支え合う
    役割や能力の違いを受け入れ、相手を尊重する。社長が兄なら常務の弟を立て、夫が社長なら経理の妻を信頼する。この支え合いが、組織全体の安心感と活気につながる。
  2. 意見がぶつかっても、現実と未来を見据える
    意見がぶつかることは避けられないが、感情論に流されず、「今何が必要か」「未来に向けてどうすべきか」を基準に判断する。こうした未来志向が家族経営を安定させる。
  3. 仕事のことを家庭に持ち込まない
    職場と家庭を分けることで、経営者同士としての議論が家庭に持ち込まれず、社員の前でも安定感が保たれる。

失敗する家族経営の特徴

一方、家族経営が崩れるケースは意外に多い。

  1. 自分の意見ばかり主張する
    「自分が正しい」と言い張るだけで、相手の意見を聞かない。結果、組織が二つに割れ、社員は判断に迷い、現場は混乱する。
  2. 意見の対立を過去に引きずる
    「昔お前はこう言った」「あの時こうした」と過去を蒸し返し、自分の非は棚に上げて相手を責める。建設的な議論にならず、会社は前に進まない。
  3. 小さな確執が組織全体に広がる
    表面上は我慢していても、水面下での不仲や嫉妬が社員に伝わる。小さな軋轢が積もり、モチベーション低下や離職につながる。

規模別の影響

  • 小規模企業では、不仲が露骨に見え、社員の不安や不満が直接会社の雰囲気を悪化させる。
  • 中〜大規模企業では、派閥や根回しが発生し、意思決定が遅れ、組織全体にじわじわと悪影響を及ぼす。

家族経営のメリット・デメリット(統計から)

家族経営はメリットも多いが、デメリットも存在する。

メリット

  • 意思決定が迅速
  • 企業の存続率が高い
  • 外部株主に左右されず、長期戦略を採用しやすい

デメリット

  • 生産性が低下する場合がある
  • 経営が硬直化しやすい
  • 外部人材の登用が難しい

統計上、日本の企業の半数以上が同族企業であり、経営者交代時に家族内の意見対立が起こると、会社の成長に影響を及ぼすことがある。(出典:内閣府資料

まとめ

私が見たある兄弟経営の会社では、社長と常務の兄弟は、当初は仲良く協力して事業を進めていたのだろう。しかし、人というものは、利益が出てお金が入ると変わるものである。弟は技術力に優れていたが、経理の知識はほとんどなかった。そのことを知ってか、兄の方は裏で会社資金を自分の口座に入れ、財を築いていた。

さらに、兄の奥さんはこの流れを壊されないように、弟のやることなすことに文句を重ねるようになった。結果として、会社は徐々に資金難に陥り、業績の回復もままならなくなったのだ。

この事例から学べるのは、家族経営では「能力」や「経験」だけでは会社は守れないということだ。経営者がいくら優れた営業力や技術力を持っていても、家族間の信頼関係が崩れていれば、その力は十分に発揮できない。

特に、過去の出来事にこだわり、相手を責め続ける態度は、家族経営において最も危険な毒になる。小さな不満が積み重なると、社員もその不協和音を感じ取り、組織全体のモチベーションが下がる。気付けば、経営上の重要な意思決定も停滞し、会社の成長機会を逃すことになる。

だからこそ、兄弟でも夫婦でも、経営者自身がまず自分の心を整えることが不可欠だ。感情に振り回されず、相手の立場や考えを理解し尊重する。これにより、互いの強みを引き出し合い、会社の力を最大化できる。信頼関係は、単なる「仲良し」で作られるものではなく、日々の判断や行動の積み重ねによって築かれるのだ。

家族経営の“光”とは、数字や成果だけではなく、互いを信じ、支え合う関係性の中から生まれる。経営者がその土台を整えることこそが、会社の未来を守る最も確かな鍵なのである。

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