
中小企業の現場で、よく見られる問題があります。それは、社員の失敗に対する社長や上司の指導の仕方が間違っていることです。たとえば、社員がミスをしたとき、社長が管理職を飛び越えて、直接部下を叱責してしまったり、現場に指示を出してしまったりするケースです。
一見、問題を早く解決しようとしているように見えます。しかし、このやり方には大きな落とし穴があります。社長が直接部下を叱ると、管理職の立場や権威が弱まります。管理職は本来、部下を育て指導する役割を担っているのに、その責任を奪われてしまうからです。結果として現場の社員は「結局、社長に言えばいい」と考えになり、管理職の指示に従わなくなります。組織の秩序が崩れるのは当然です。
また、このような話もあります。ある二代目経営者の会社での話です。先代につかえていたベテラン管理職がいました。この管理職は、現場の部下をしっかり育てる経験がある一方、二代目経営者はまだ経営に不慣れでした。ある社員のミスが発生したとき、2代目経営者はベテラン管理職に相談せず直接社員を叱責。結果、管理職は「自分の指導力は否定された」と感じ、部下との信頼関係にひびが入りました。現場の社員も混乱し、誰の指示に従えばいいのか分からなくなったのです。
指揮系統の乱れがもたらすリスク
管理職が育たない、あるいは権限と責任が曖昧な組織では、社員のモチベーション低下も避けられません。部下は自分の仕事の評価や指示の優先順位が不明確になるため、何を優先すべきか迷い、成果が出にくくなります。また、管理職が権限を持たない状態が続くと、責任感も薄れ、組織全体の成長が停滞します。結果的に、優秀な社員は辞め、組織の質が下がるという悪循環に陥ります。
さらに、この混乱は経営者にとっても大きな損失です。現場の小さなミスが大きなトラブルにつながるだけでなく、経営者ご自身が現場対応に追われ、本来の経営判断や戦略に集中できなくなるのです。中小企業では、特にこの「経営者が現場に介入しすぎる」というパターンが組織の成長を阻害する最大の原因になりがちです。

なぜ中小企業では管理職育成が後回しになるのか
こうした問題が起きる背景には、いくつかの心理的・組織的な要因があります。
- 二代目経営者がベテラン管理職に意見できない
先代経営者に仕えて長年の信頼を得ているベテラン管理職に対し、若い経営者は遠慮してしまうことがあります。「まだ自分は経験が浅いのに口出ししていいのか」という心理が働き、重要な改善点や指導の必要性を伝えられず、結果として管理職の権限や役割が曖昧なまま放置されるのです。 - 力関係や人間関係の影響
管理職とその上司の間に個人的な力関係や仲の良さが存在すると、組織のルールよりも人間関係が優先されやすくなります。例えば、上司が部下に過剰に配慮して指示を出さない、あるいは管理職を飛び越えて直接指示する、といった行動が現場で常態化し、指揮系統が乱れる原因となります。 - 管理職に対する理解不足
経営者ご自身が管理職の本質的な役割を理解していない場合、「管理職は部下に命令するだけでよい」と誤解し、権限を与えずに現場に介入してしまいます。その結果、管理職は指導力を発揮できず、部下も誰の指示に従うべきか迷う状態が続きます。
さらに、こうした要因は複合的に重なります。遠慮、力関係、理解不足が同時に存在することで、管理職は育たず、現場は混乱する組織構造になってしまいます。中小企業では、この状況を放置してしまうと、社員のモチベーション低下や離職率上昇、経営者自身の現場対応負荷増加といった問題が連鎖的に発生するのです。
解決策:経営者が果たすべき役割
では、どうすればこの問題を防げるのでしょうか。答えは明快です。経営者は管理職を守り、権限と責任を委ねることです。具体的には次の行動が有効です。
- 部下の失敗はまず管理職に任せる
社長が直接叱るのではなく、管理職に適切に指導させることで、管理職の権威と責任が保たれます。例えば現場でトラブルが起きた際、経営者は「どう対処する?」と管理職に確認し、必要に応じてアドバイスをするだけで十分です。こうすることで、管理職は自分の判断で部下を導く経験を積み、成長の機会を得られます。 - 管理職を飛び越えた指示は避ける
上司や経営者が直接現場に指示を出すと、管理職の成長が阻害されます。アドバイスは行うが、指示は必ず管理職経由で行うことが基本です。これにより、部下も誰の指示に従うべきかが明確になり、組織内の混乱を防げます。 - 管理職育成を戦略的に行う
定期的な指導力研修や、現場での小さな成功体験を積ませることで、管理職が自信を持って部下を指導できるようになります。また、管理職同士の情報共有や成功事例の共有も有効です。部下の課題解決や目標達成の方法を学ぶことで、管理職はより自主的に現場を動かせるようになります。 - 権限と責任を明確にする
誰が何を決める権限を持ち、誰が責任を取るのかを明文化することで、指揮系統の混乱を防ぎます。たとえば、「現場の作業指示は管理職が決定」「トラブル発生時の対応は管理職が一次判断、経営者はアドバイスに徹する」といったルールを明示するだけで、現場の判断迷いは大幅に減ります。
このように、経営者が管理職の背中を守り、権限と責任を委ねることで、組織は秩序を取り戻し、社員の自主性も育ちます。経営者が現場に飛び込みすぎず、管理職が中心となって組織を動かす環境を整えることが、中小企業の成長と持続性に直結するのです。

成功事例:管理職を中心に据えた組織運営
ある中小企業では、以前まで社長が現場の細かな指示まで口を出していました。その結果、管理職は「指示を待つだけの存在」になり、現場の社員も誰の言うことを優先すべきか迷う状況が続いていました。二代目経営者はまだ経験が浅く、ベテラン管理職に遠慮して直接指示を出してしまうことも少なくありませんでした。そのため、現場の混乱は日常化しており、社員のモチベーション低下も目立つ状態でした。
この状況を改善するため、経営者はまず管理職の権限と責任を明確化しました。具体的には、現場の指示や業務改善の判断は管理職が行い、社長は必要に応じてサポートやアドバイスを与える立場に徹することにしました。また、管理職には定期的なミーティングやフィードバックの場を設け、部下指導の成功例や課題を共有する仕組みも導入しました。
その結果、管理職の行動が変わり始めました。以前は指示待ちだった管理職が、部下と向き合い、自分なりに指導方針を考えるようになったのです。部下も、管理職の指示を受けることで業務に迷いがなくなり、自分で判断して動く余地が増えました。さらに、管理職と部下の間に信頼関係が育ち、問題が発生しても管理職を中心に迅速に解決されるようになりました。
経営者自身も、現場介入を減らしたことで本来の経営業務に集中できるようになりました。新規事業の検討や社内の中長期計画にも時間を割けるようになり、組織全体の成長スピードが向上しました。結果として、社員の自主性や生産性も高まり、離職率は低下。経営者・管理職・現場社員がそれぞれの役割を理解し、機能する組織に生まれ変わったのです。
この事例は、中小企業でも管理職を中心に据え、権限と責任を明確化することで、組織が安定し成長できることを示しています。管理職育成は単なる教育ではなく、組織の秩序と信頼を守るための戦略的な取り組みであることが分かります。
まとめ
中小企業の現場が混乱する最大の要因は、経営者が管理職を飛び越えて現場に介入し、権限と責任のバランスを崩してしまうことにあります。管理職の役割を守り、彼らに判断と指導の機会を与えることこそが、組織の秩序と信頼を育む第一歩です。経営者が「背中を押す存在」に徹し、管理職を中心に組織が回る体制を整えれば、社員は安心して動き、自主性と成長が生まれます。結果として経営者自身も本来の仕事である経営判断に集中でき、会社全体の成長スピードが加速するのです。管理職育成は単なる教育ではなく、企業の未来を決定づける経営戦略そのものなのです。