
長年、会社を支えてくれた古参社員。
「彼が辞めたら、うちの売上が下がってしまう」
「彼が顧客を握っているから、へたに刺激して怒らせたら大変なことになる」
そんな恐怖から、古参社員の勝手な行動や、目に余る経費の使い込みに気付きながらも、見て見ぬふりをして喉元に刃を突きつけられたような経営を続けている社長は、決して少なくありません。
しかし、経営コンサルタントとして多くの修羅場を見てきた私から、一つの不都合な真実をお伝えします。
「会社にぶら下がり、蜜を吸い続ける古参社員が辞めたとき、組織は本当の意味で生まれ変わり、売上も利益も跳ね上がる」
これはきれい事でも何でもありません。私が実際に体験した、ある売上15億円の自動車部品工場での事実をお話しします。
異常な決算書。汗水垂らす現場の裏で、経費を貪る古参社員
その会社は、従業員50名ほど、売上規模15億円前後の自動車部品工場でした。
ご存知の通り、自動車部品というのは1パーツの単価が非常に低く、粗利も薄い世界です。現場の職人たちが、それこそ額に汗して1円、2円の利益を積み上げるために必死に機械を回していました。
ところが、その会社の決算書を分析したとき、私は目を疑いました。
製造原価は自動車関連としてそこそこ適正に抑えられているのに、「販売費一般管理費(販管費)」の数値が、同業他社と比べて異常に高かったのです。
原因をさらに突き詰めると、犯人は一目瞭然でした。
先代社長の時代からいる、ある「古参の営業マン」の接待交際費です。
社長の引き出しから見せられた経費精算書の束。そこには、海外視察の名目での渡航費、夜な夜な繰り返される飲み食いの領収書が、これでもかと並んでいました。彼は先代社長から「接待で仕事を獲ってくる営業スタイル」しか教わっておらず、会社の金を自分の財布のように使ってじゃぶじゃぶと接待営業を繰り返していたのです。
「売上」を人質に取られ、何も言えない社長室のリアル
「社長、この接待交際費について、彼と話し合いましたか?」
私が尋ねると、社長は力なく首を振って答えました。
「ええ、話しました。でも、同じ状況で何も変わらないんです……」
変わるはずがありません。その社長室で繰り広げられていたのは、対話ではなく、古参社員による「社長への心理的な脅迫」だったからです。
少し薄暗い社長室。デスクの上にじゃぶじゃぶと使われた領収書の束を置き、社長は意を決して口を開きます。
「〇〇君、今月の接待交際費なんだが……いくら何でも使いすぎじゃないか。現場の人間だって1パーツ数円の利益を出すために必死なんだ。しばらくの間、夜の接待は控えてくれないか」
一見、まともな注意に見えます。しかし、その声はどこか弱々しく、震えていました。
なぜなら社長の心の中は、「彼に辞められたら、うちの売上が下がってしまう」「古い顧客を全部持っていかれたら大変なことになる」という恐怖と不安で支配されていたからです。
対する古参社員は、社長室のソファにどっしりとふんぞり返ったまま腕を組み、口元に薄笑いを浮かべてこう言い放ちます。
「社長、何を言ってるんですか。この夜の付き合いがあるからこそ、あの太い顧客がうちと取引を続けてくれてるんですよ?私が営業の手を緩めたら、来月からうちの売上がどうなるか、社長が一番よく分かっておられるでしょう」
「売上」を人質に取った、あからさまな脅しです。
過去に、社内で集合研修を行った際、社長の優柔不断な態度が引き金となり、40名いた社員のうちなんと20名が一気に退職するという大事件を経験していた社長は、人が離れていく恐怖に完全にすくみ上がっていました。
「自分自身が何も決められず、それを見た社員が自分の将来に不安になり、離れていってしまうのではないか」
その強い不安に支配され、それ以上何も言えなくなってしまったのです。社長がどれだけ声を大にして「真剣に話した」と言っても、腹がくくれていない言葉は、相手からすればただの「泣き言」にしか聞こえません。完全に舐められ、見透かされている。これが、泥沼から抜け出せなかった当時の社長室のリアルな光景でした。

コンサルの前では大人しい。だが、いなくなると社長の顔色を見る
見かねた私が間に入り、社長の代わりにその古参社員と直接対峙して話をすることにしました。
経営コンサルタントという「外部の厳しい目」が入ったことで、さすがの彼もまずいと思ったのでしょう。私が経費の使い方を厳しく指摘した後は、しばらくの間ピタリと経費の使い込みをやめ、実におとなしくなりました。
「川原さん、おかげさまで彼も反省してくれたようです」
社長もホッと胸をなでおろしていました。
しかし、問題はここからです。
私は外部のコンサルタントですから、四六時中その会社に張り付いているわけではありません。私が現場を離れ、社内の空気がいつも通りに戻った頃、その古参社員はまた本性を現しました。
じっと社長の顔色を窺い始めたのです。
社長が自分に対して、まだビクビクしているか。
コンサルの川原がいなくなった後、社長の目がどこを向いているか。
そして、「あ、社長はやっぱり俺に強く言えないな」「川原さんに言われたから形だけ注意してきただけだな」と、社長がやはり強く出られないと見切った瞬間、彼は何食わぬ顔で、またじゃぶじゃぶと会社の金で飲み食いをし、経費を使い始めました。

外部のコンサルタントがいくら強力な手綱を引いて一時的におとなしくさせても、肝心のトップである社長自身が「腹をくくって」いなければ、何の意味もない。コンサルタントがいない場所で、社長の顔色ひとつで簡単に裏切られてしまう。それが、組織のリーダーが真剣になれていないときの偽らざる現実でした。
コンサルタントの「卒業宣告」で、社長が腹をくくった瞬間
ダラダラと会社の蜜を吸われ続ける状況を終わらせるため、私は社長に告げました。
「社長、これで社長は私から卒業です」
これはつまり、「これ以上コンサルタントが手を貸すことはない」という宣告でした。その言葉を聞いたとき、社長は退路を断たれました。ようやく重い腰を上げ、本当の意味で覚悟を決めたのです。
「真剣」になるとは、すなわち「腹をくくる」ということ。
腹をくくれば、社長の言葉も変わり、態度も、目の色もすべてが変わります。社長が真剣になれば、その空気は必ず相手に伝わります。
社長は古参営業マンを呼び出し、これまでの接待営業を全否定し、不適切な経費使用を認めないこと、そして「現場への配置転換」を真剣な態度で命じました。
これまでの営業スタイルにしがみつき、プライドを傷つけられた古参社員は、そのまま会社を去っていきました。
「これで売上がガタ落ちするかもしれない……」
社長の脳裏に最悪のシナリオがよぎったその瞬間、会社で奇跡が起き始めました。
古参が去り、残ったメンバーで売上・利益は「倍」になった
トップに君臨していた重鎮がいなくなった営業部で、残された若手や他の営業マンたちが、まるで目の前の霧が晴れたかのように一念発起したのです。
これまでは「どうせあの人が仕切っているから」「あの人に気を遣って新しい提案ができない」と、指示待ち人間のようになっていた社員たちが、自分たちの力で会社を盛り上げようと自発的に動き出しました。属人的な接待営業から、組織として利益を残す近代的な営業スタイルへと一気にシフトしたのです。
結果はどうなったか。
心配していた売上減少どころか、残った従業員たちが一丸となって盛り上げ、今では売上も、会社に残る「利益」も、当時の倍にまで成長しました。
人が辞めることに怯え、不安に支配されていたあの優柔不断な社長は、今や別人のように自信に満ち溢れた表情で経営の舵を取っています。
経営者のあなたへ:花の蜜を吸わせ続けるか、腹をくくるか
もしあなたが今、古参社員の扱いに悩み、「彼が辞めたらうちの売上が下がってしまう」と怯えているなら、この事実を思い出してください。
社長が真剣に腹をくくって話をすれば、会社に不要な存在、去るべき者は自然と離れていきます。そして、去った後には必ず、残されたメンバーが育ち、組織は良い方向へと回り始めます。
逆に、社長がいつまでも恐怖に縛られ、真剣になれないままでいれば、その古参社員はいつまでもあなたの会社にしがみつき、現場が汗水垂らして稼いだ利益という名のリキッド(花の蜜)を吸い尽くす存在であり続けるでしょう。
長年会社を支えてくれた功績には感謝しつつも、これからの会社の未来のために、あなたはいつ腹をくくりますか?
属人経営を脱却し、利益が残る強い組織を作りたい経営者の方は、ぜひ一度、私にご相談ください。
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