
「息子に後継ぎとしての自覚がない」 「叱っても聞き流され、態度が改まらない」 そう嘆く経営者の裏側で、組織はすでに死に向かっているかもしれません。
かつて私が指導したある会社では、目を覆いたくなるような光景が広がっていました。先代は苦労して成功者となりましたが、その「レール」に乗っただけの息子さんは、経営者としての最低限の土台すら失っていたのです。
1,「裸の王様」と化した二代目の振る舞い
社員から聞こえてくるのは、息子さんへの愚痴ばかりでした。
・規律の欠如: 平気で遅刻をし、挨拶すらその日の機嫌次第。
・態度の横暴: 挨拶がなければ「むすっとした顔」で威圧し、指示は常に向こう見ずな高圧的態度。
・公私混同: 業務中と言いながら自宅で休憩し、スケジュール表には「JC(青年会議所)で旅行」と平然と書き込む。
これでは社員が心を開くはずもありません。社長が叱っても、取締役が注意しても、本人は「けろっ」としている。周囲は諦め、誰も何も言わなくなったとき、その「無言」は承認ではなく、「離反」へのカウントダウンでした。
2,突きつけられた現実:離職希望100%
私がこの会社の指導に入り、まず行ったのは全社員との面談とアンケートでした。その結果は、凄惨なものでした。
「もし、今の後継者が社長になったら、あなたはこの会社に残りますか?」 この問いに対し、「辞める」と答えた社員は100%。 つまり、承継の瞬間に会社が消滅することを意味していました。
私は面談の最後に、後継者である息子さんを呼び、このアンケート結果を突きつけました。さらに、矢継ぎ早に質問を重ねました。 「あなたは会社の数字を理解しているのか?」 「現場の苦労や業務のフローを知っているのか?」 「原価管理の一つでも、自分の言葉で説明できるのか?」
何も答えられず、自分が立っている場所が「親のレール」という名の虚像に過ぎなかったことを知った息子さんは、その場で見事なまでに青ざめました。この「真実の直視」こそが、翌日からの彼の態度を一変させるきっかけとなったのです。
3,真の後継者を育てる「3つの不」の深掘り
ここで、私の著書でも強調している「獅子が子を千尋の谷に突き落とす」教育論を説きます。今の彼に足りなかったのは、親が良かれと思って取り除いてしまった「不自由・不満足・不親切」という名の試練、そしてそれによって磨かれる「器」の形成でした。
・「不自由」を与える: 親のレールの上は、何でも思い通りになる「自由」に溢れています。しかし、経営とは本来、法規制、資金、競合、そして動かない組織といった「不自由」との戦いです。あえて予算を絞り、権限を制限し、その不自由な枠組みの中で知恵を絞らせること。制約があるからこそ、経営者の創造力は磨かれます。
・「不満足」を知る: 何でも揃っている「満足」な環境では、ハングリー精神は育ちません。現場の設備が古い、人員が足りない、顧客からクレームが来る。そんな「不満足」な状況をあえて後継者に担当させるのです。その不満を自らの力で満足へと変えていくプロセスこそが、経営の成功体験となります。
・「不親切」を貫く: 先代や周囲が手取り足取り教える「親切」は、後継者の思考を停止させます。私は、あえて答えを教えない「不親切」を勧めます。自分で調べ、自分で誰かに頭を下げて教わり、自分で解決策を見出す。誰も助けてくれない孤独な決断の場を経験させること。それが、一人の経営者としての背骨を作ります。
4,組織の形を決めるのは、後継者の「器」である
ここで、すべての経営者に知っておいてほしい残酷な真実があります。それは、「組織の形や規模は、トップの器の大きさに収束する」ということです。
たとえ先代社長が人格者であり、組織の三要素が整った立派な組織を作り上げていたとしても、それはあくまで「先代の器」に合わせた形に過ぎません。バトンを受け継いだ後継者の器が小さければ、組織は瞬く間にその器に合わせて縮小し、歪んでいきます。
いくら先代が「良い組織」を残したと思っていても、後継者にその組織を維持し、発展させるだけの「器」がなければ、社員は離れ、文化は腐敗します。後継者の器とは、単なるスキルではありません。「自分に厳しい意見を言ってくれる人間をそばに置けるか」「現場の痛みから逃げずに、自らの足で歩み寄れるか」「数字という現実から目を背けず、責任を一身に背負えるか」といった覚悟のことです。
親のレールに乗り、温室で育った後継者に「器」は育ちません。先代が人格者であればあるほど、後継者はその影に隠れ、自分の器を広げる努力を怠りがちです。しかし、社員が見ているのは「先代の過去」ではなく「二代目の現在(器)」なのです。
5,承継の前に「組織の三要素」を自ら作らせる
「共通目的・貢献意欲・コミュニケーション」という組織の三要素。これらは先代の器に収まっていたものを引き継ぐのではなく、後継者が自らの器を広げながら、現場で「勝ち取るもの」です。
100%の社員に「辞める」と言わせるような状況は、後継者の器が組織を包み込めていない証拠でした。ここからどうやって自らの器を大きくし、信頼を取り戻すか。親のレールを脱ぎ捨て、泥にまみれて「不自由・不満足・不親切」を乗り越えた先にしか、真の承継はありません。
結論:あなたは息子に「恥」をかかせる覚悟があるか
多くの社長は、息子を傷つけることを恐れます。しかし、本当の恐怖は、誰も何も言わなくなった「死に体」の組織を彼に渡すことです。
もしあなたが後継者の自律に悩んでいるなら、一度、第三者の手で社員の本音を可視化してください。そして、息子さんに「本当の経営の厳しさ」を突きつけてください。青ざめるほどの羞恥心と危機感を知ったとき、初めて二代目の「経営者としての人生」が始まります。
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