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経営者は“経営”を、社員は“実務”を担う――役割分担こそ成長の鍵

中小企業の経営において、もっとも重要でありながら多くの企業が見落としがちなポイント――それが「役割分担」です。特に「経営者の役割」と「社員の役割」が曖昧になっている企業では、成長の壁にぶつかる場面が多く見受けられます。

「経営者は経営を、社員は実務を担う」というシンプルな原則。しかし、この原則を正しく理解し、社内に定着させている企業は、決して多くはありません。

役割分担が不明確な組織では、経営者が実務に追われ、社員は判断を上に仰ぐという“現象”が起きがちです。これでは経営者の思考が短期的になり、未来への戦略を描けなくなります。本来、経営者は会社の「未来設計」に集中し、社員は「現在の実務」に専念することで、組織全体が健全に機能します。このバランスこそが、持続的な成長を実現するための土台となるのです。

経営者が“現場”から離れられない理由

経営者が現場から離れられない理由には、さまざまな感情や実務上の懸念が影響しています。特に創業経営者にとって、自分が一から作り上げた現場に対して強い愛着があり、細部まで自分の手で管理したいという気持ちは理解できます。「現場を知っているのは自分しかいない」「自分が動いたほうが早い」「任せるのが不安だ」という気持ちは、経営者としての責任感から来るものです。しかし、これらの理由が長期的に続くことが、結果的に経営の成長を止めてしまう要因となることを認識しなければなりません。

企業が成長し、従業員数が増えてくると、経営者の役割は大きく変わります。最初は少人数で現場を回すことが可能でも、組織が拡大するにつれて、経営者がすべての業務に関わり続けることは不可能になります。もし経営者が依然として現場の細部にまで関与し続けるなら、その結果、経営者の視野は現場の問題にとらわれ、未来の方向性を描くことができなくなります。経営者の時間とエネルギーは、現場で起きていることを解決することに費やされ、企業のビジョンや戦略、成長のための計画に集中することが難しくなるのです。

現場から離れることは決して「逃げ」ではなく、「責任」として捉えるべきです。経営者の本来の役割は、組織の将来を見据えた戦略的な判断を下し、組織全体を導いていくことです。現場で起きる問題にすべて関与してしまうと、経営者自身が戦略的な思考をする時間が取れなくなり、企業の成長を妨げる結果を招きます。現場の細かい問題を任せることで、経営者は自分の役割に集中でき、より高次の判断を下すことができるようになります。

また、経営者が現場から離れることで、社員に対して信頼を示し、責任を委譲することができます。これにより、社員は自立心を養い、問題解決能力を高め、組織全体の力を引き出すことができるようになります。経営者が「任せる勇気」を持つことで、組織は一層強化され、成長への道が開けるのです。

経営者は自らの役割を再認識し、現場から適切に距離を置くことが、企業の未来を切り開くために必要なステップだと言えます。

「経営」は未来をつくる仕事

経営とは、現場の問題解決ではありません。明日の売上だけを考えるのではなく、5年後・10年後のあるべき姿を描き、その実現のために組織を導く――それこそが経営者の本質的な役割です。

たとえば、

  • どんな市場で生き残るのか
  • どのような事業展開をしていくのか
  • どのような人材を育てるのか
  • どんな企業文化を築くのか

こうしたテーマは、現場のプレイヤーには見えません。これらを考えるのは、トップだけです。

経営者が現場に留まり続ける背景には、責任感や信頼の欠如、そして過去の成功体験に基づく“自分こそが最適解”という思い込みがあります。たしかに創業期には、経営者が現場の細部にまで関与し、全体を掌握することで組織は動いていたでしょう。しかし、そのスタイルをいつまでも続けていては、成長のボトルネックになります。

社員は「任されていない」ことで主体性を失い、経営者は「任せられない」ことで時間とエネルギーを消耗します。結果として、意思決定のスピードが落ち、ビジョンの浸透も不十分になります。加えて、市場の変化に対する柔軟な対応力も鈍り、チャンスを逃すリスクが高まります。

真のリーダーとは、全体最適を考え、人に託し、育てることができる人です。現場に深入りし続けることは“貢献”のようでありながら、実は“支配”や“依存”であることすらあります。経営者が現場から一歩引き、戦略・組織づくり・人材育成にフォーカスすることで、初めて“経営”という本来の役割を全うできるのです。

社員に「経営視点」を求めすぎる危険

最近では、「社員に経営視点を持たせるべきだ」という考え方は、一見すると組織の一体感を高め、成長を促すように思えます。しかし、それが過剰になったとき、組織は逆に混乱を招きかねません。なぜなら、“経営視点”とは本来、全体最適や中長期のリスクを見据えた判断を要する高度な領域であり、現場レベルの実務とは視点もスピードも異なるからです。

現場の社員が、経営者のような思考を求められ続けると、プレッシャーとなり、判断に迷いやブレが生まれます。本来、現場は「今やるべきこと」に集中し、その質と効率を高めていくべき場です。そこに過剰な抽象性や責任が乗れば、結果的に実務の質が低下してしまうのです。

むしろ経営者がなすべきは、「なぜこの方向に進むのか」「このプロジェクトは何のためにあるのか」といったビジョンを丁寧に伝え、社員が自分の業務にどう意味を見出せるかを導くことです。そのうえで、社員には“判断”よりも“実行”を委ね、個々の知恵や経験を最大限に活かしてもらう。この役割分担こそが、経営と現場の健全な連携を生み出す鍵なのです。

ですから「経営視点を持て」という言葉は、社員に期待をかける前向きな表現にもなり得ますが、その実態が「経営者の責任放棄」になっていないかを、常に振り返る必要があるのです。

もう一度いいます。「社員の役割は、“経営の実行部隊”であって、“経営判断者”ではありません。経営者が舵を取り、社員がそれを力強く推進する」この明確な構造が、企業を前進させるのです。

幹部社員が果たすべき“翻訳”の役割

幹部社員が果たすべき“翻訳”の役割は、単に経営者のビジョンを伝えるだけでなく、ビジョンの核心を現場の実情に即して解釈し、業務に落とし込むことで、組織全体が一貫した方向性を持って動けるようにする重要な役割です。経営者が掲げるビジョンや目標は、しばしば高尚で抽象的なものになることがありますが、それを具体的な行動指針に変換するのが幹部の仕事です。

例えば、経営者が「より良い顧客体験の提供」をビジョンとして掲げた場合、それが具体的にどのような形で業務に反映されるか、どのような施策が必要かを理解し、現場に伝えるのは幹部社員の役目です。現場の状況や課題を踏まえて、このビジョンをどう具体化していくか、どのように実行に移すかが幹部の“翻訳機能”にかかっています。このプロセスを通じて、社員はビジョンが単なる理想論ではなく、日々の業務の中で実現可能な目標であることを実感することができます。

また、幹部社員は現場の声を経営者にフィードバックする重要な役割も担っています。現場での実態を経営者に伝え、ビジョンや施策が現実的に達成可能かどうか、必要な調整がないかを提案することで、経営戦略と実務のギャップを埋める橋渡しをします。この双方向のコミュニケーションが、組織内での信頼を築き、実行力を高めるために不可欠です。

幹部社員が経営者の想いを現場に伝える際には、そのメッセージをどれだけ共感を持って伝えられるかがカギとなります。

単に上司からの指示として伝えるのではなく、経営者のビジョンがなぜ重要なのか、その意図を理解し、どのように現場で役立つのかを伝えることが大切です。幹部社員自身がそのビジョンに共感し、納得することで、社員全体もその意義を深く理解し、行動に移すことができるようになります。

ビジョンを現場に浸透させるためには、幹部社員が単なるメッセンジャーにとどまらず、積極的にその実現に向けてリーダーシップを発揮することが求められます。幹部は、経営者と現場の間に立ち、両者をつなぐ潤滑油のような存在であり、その能力が組織全体の成長に大きく寄与するのです。

組織を動かすために、経営者がすべきこと

組織を動かすためには、経営者が自分の役割を明確にし、その役割に集中することが不可欠です。経営者の仕事は、戦略的な意思決定や企業全体の方向性を決めることです。そのため、経営者は現場の細かい業務に深入りするのではなく、組織全体を俯瞰し、長期的なビジョンを掲げ、必要なリソースを提供することに専念すべきです。経営者が自分の役割をしっかりと認識し、業務の範囲を明確にしておくことで、組織の機能はスムーズに働き始めます。

一方、幹部社員の役割は、経営者が決定した戦略やビジョンを現場に橋渡しすることです。経営者の意図を理解し、それを現場に落とし込むために、幹部は社員と積極的にコミュニケーションを取り、具体的な行動計画を作成していく必要があります。幹部社員が受け身になり、ただ指示を待つような姿勢では、現場の力を引き出すことはできません。幹部が能動的に行動し、現場の状況を経営者にフィードバックすることで、戦略が現実のものとなります。

そして、現場社員は、経営者と幹部が示した方向性に基づいて、日々の具体的な業務を遂行します。現場の社員がビジョンや戦略に無関心であると、そのビジョンはただの絵に描いた餅となり、組織の動きは停滞してしまいます。現場社員が組織の目標に対して共感し、自ら積極的に行動することが求められます。経営者や幹部が現場社員にビジョンを伝え、その重要性を理解してもらうためには、現場との対話を大切にし、社員一人ひとりがその役割を自覚し、責任を持って業務に取り組むような文化を作ることが重要です。

このように、経営者、幹部社員、現場社員という三層構造がしっかりと機能すれば、組織はシンプルに動き始め、戦略も現実のものとなります。しかし、経営者が細部にまで口を出し、幹部が受け身になり、現場社員がビジョンに無関心であると、どれだけ優れた戦略があっても実行には移されません。各層が自分の役割を果たし、協力し合うことで、組織は一丸となり、目標達成に向けて力強く進むことができるのです。

まとめ:経営は「任せること」で加速する

経営者が“経営”に集中し、社員が“実務”に集中する。これは単なる役割分担ではありません。企業のエンジンを最大限に活かすための「構造設計」なのです。

あなたが今、実務に追われているとしたら、立ち止まってください。 その時間、本来は未来を描くために使うべき時間ではないですか?

経営の本質は、「人を育て、任せ、組織で成果を出すこと」。
それを実現するために、経営者としてのあなたの第一歩は――“自らの役割”を再定義することです。

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