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壊れない車と高騰するコスト|自動車整備業界の収益構造が限界に近づいている理由

一昔前まで、自動車整備業は「壊れる車を直す」ことで収益を上げるビジネスモデルが成り立っていました。エンジンの不具合、足回りの異常、電装系のトラブルなど、修理需要が安定して存在していたのです。しかし近年、自動車技術の飛躍的な進化により、その前提が大きく崩れています。各メーカーが品質向上や故障リスクの低減に注力した結果、車自体が「壊れにくく」なり、部品の耐久性も大幅に向上しました。

エンジンは制御精度が高くなり、電子制御ユニット(ECU)の搭載により異常の早期検知が可能になっています。また、定期的な点検・メンテナンスの重要性がユーザーにも浸透し始めたことで、大きなトラブルに発展する前に対処される傾向が強まっています。これはユーザーにとっては安心であり、歓迎すべきことですが、整備業界にとっては「仕事が減る」ことを意味します。

特に、一般修理や突発的なトラブル対応といった高単価の業務が減少しており、売上の柱が「車検」に偏りがちです。しかし車検は、価格競争が激化しているうえ、法定点検に沿った作業しかできないため利益率も低め。結果として、整備工場は「数をこなさなければ売上が立たない」という過酷な構造に追い込まれています。

このように、技術の進化が整備業の存在価値を脅かしつつある今、従来のビジネスモデルのままでは生き残りが難しくなっているのです。

売上を増やしても利益は増えない「矛盾」

自動車整備業では、売上を伸ばしても思うように利益が残らないという、深刻なジレンマを抱えています。まず第一に、車検単価には明確な上限があります。車検にかかる費用の多くは法定費用であり、実際に整備業者が自由に設定できるのは整備料金の一部に過ぎません。さらに、価格競争が激化している現代では、相場よりも高い価格を提示すれば、すぐに他店へと顧客が流れてしまいます。つまり、単価を上げて利益を確保するという戦略が取りづらいのです。

次に、部品代の高騰も大きな問題です。特に輸入車やEV(電気自動車)などで使用される電装部品は、世界的な供給不足や為替の影響を受けて価格が年々上昇しています。さらに、メーカー純正部品しか使えないケースも多く、価格交渉の余地すらありません。これにより、整備業者の利益は部品代に圧迫される形となり、利益率がさらに低下しています。

加えて、人件費の上昇も無視できません。整備士の高齢化が進む中で若手人材の確保が難しくなっており、限られた人材に対して高い給与を支払わなければならない状況が続いています。人手不足によって1台あたりにかけられる作業時間も増え、業務効率が低下してしまうことも少なくありません。

こうした状況が重なり、どれだけ多くの車検や整備をこなしても、実際に残る利益はわずか。「働いても働いても儲からない」という悪循環が、業界全体を覆っているのです。これは、単なる経営努力だけでは解決できない構造的な問題となっています。

労働生産性を上げることの限界

売上が伸び悩む中で、企業が次に目を向けるのが「労働生産性の向上」です。できるだけ少ない人員と時間で、より多くの収益を上げることは、経営上の重要なテーマです。しかし、自動車整備業においては、これにも限界があります。

確かに、予約管理や顧客情報のクラウド化、見積もり作成の自動化など、業務の一部はDXによって効率化が可能です。整備進捗の見える化や、定期点検の通知自動送信なども労働時間の削減に寄与します。しかし、整備作業そのもの――車の点検、部品交換、故障診断といった工程は、今もなお「人の手」に依存せざるを得ません。しかも整備作業は、ミスがあってはならない高い精度と安全性が求められるため、スピードよりも確実性が優先される現場でもあります。

つまり、整備業では「どれだけ効率化を図っても、人の手が必要な工程の生産性には限界がある」という、構造的な制約があるのです。このため、他業界のようにIT化によって飛躍的に労働生産性を向上させることが難しく、結果的に「働いても利益が出にくい」状況から抜け出せない現実があります。

今後の整備業界に必要な視点とは?

今後、整備業が生き残っていくためには、「壊れた車を直して稼ぐ」という従来のビジネスモデルからの脱却が不可欠です。車の故障件数が減るなかで、整備業が持続可能な利益を確保するには、新しい付加価値を提供する視点が求められます。

たとえば、ボディコーティングやドライブレコーダー、カーナビなどの電装カスタムといった、高単価・高付加価値なサービスへのシフトは有効な手段です。また、車の維持管理を定額でサポートする「サブスクリプション型サービス」も、安定した収益基盤を築く上で有望です。EV(電気自動車)やPHVなど新技術への対応力を高めることで、他社との差別化も図れます。

さらに、限られた人材を効率的に活用するために、定型業務の一部外注化や、受付・見積もり業務のデジタル化など、業務フローの見直しも必要です。こうした取り組みに加え、「レバレート(整備単価)」の見直しも避けては通れません。過去の価格感にとらわれず、技術力やサービスの質に見合った対価をしっかりと請求できる体制を整えることが、今後の収益性向上のカギを握ります。

価格を上げるには、単なる値上げではなく、「選ばれる理由」を明確にし、顧客に納得してもらう仕組みづくりが不可欠です。そのためにも、経営者はマーケティングとブランディングの視点を持ち、整備業を“価値を売る”サービス業へと転換していくことが求められています。

具体的に何から始めるか?

整備業の未来を切り開くには、まず 現状の棚卸し から始めることが重要です。「どのサービスで利益が出ていて、どこでコストが膨らんでいるのか」を見える化することで、改善すべきポイントが明確になります。そのうえで、次のステップとして着手すべきことは大きく分けて3つです。

  1. 付加価値サービスの導入と見直し
    例えば、すでに行っているコーティングや電装パーツ取付がある場合、それらの「単価設定」や「売り方」を見直すだけでも利益改善につながります。未導入の整備業者は、小規模からでもメニュー化し、顧客に選ばれるサービス作りを意識しましょう。
  2. レバレート改善のための価値発信
    価格を上げるには「なぜその価格なのか」が伝わる仕掛けが必要です。技術力・対応力・安心感といった自社の強みを、ホームページやSNS、店頭でしっかり伝える努力が求められます。「うちは高いけど納得できる」と思われることが、値決めの第一歩です。
  3. デジタルツールの活用
    クラウド型の顧客管理や、LINEでの予約・見積もり通知など、時間を奪われている業務をITで効率化することで、現場の負担を減らせます。特に人手不足が深刻な中小整備工場では、少人数でも回せる仕組み作りが必須となります。

このように、一歩一歩の積み重ねがやがて大きな差になります。「時代の変化に合わせて、どう変わるか」を考えることが、整備業の未来を守る第一歩です。

変化を恐れず、選ばれる整備業へ

自動車整備業を取り巻く環境は、大きく変わりつつあります。車が壊れにくくなり、利益率の低い定型業務が中心となり、さらに人件費や部品代は上昇。従来の「台数をこなす」ことで利益を確保するモデルは、すでに限界を迎えつつあるのです。

だからこそ今、整備業には“変化に適応する力”が求められています。ただ漫然と日々の業務をこなすのではなく、自社の強みを見つめ直し、選ばれる理由を作っていくことが重要です。単価を上げる、付加価値を提供する、新しい収益源を見つける──どれも簡単ではありませんが、それこそが今後の生き残りの鍵になります。

「ウチは昔ながらの整備工場だから…」と尻込みせず、一歩を踏み出しましょう。整備士としての技術や誇りは、時代が変わっても変わらず価値を持ち続けます。それをどう見せ、どう届けるか。視点を少し変えるだけで、整備業の未来はもっと明るくなるはずです。

変化を恐れず、しかし本質は見失わず。地に足をつけながら、次の時代に選ばれる整備業を目指していきましょう。

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