
最近、寝付けなくなることが増えた。 目を閉じても、頭の中に浮かぶのは羊の群れではなく、支払予定表の数字と通帳の残高だ。
「どうすれば、この資金繰りは根本的に楽になるのか」
答えの出ない問いが、暗闇の中で何度もリフレインする。 どの経営者も同じ悩みを抱えているのは分かっている。材料費は容赦なく高騰し、人手不足で現場は火の車だ。本来なら真っ先に価格転嫁をすべき局面。だが、指が止まる。「価格を上げれば、客が離れるのではないか」という恐怖が、喉元まで出かかった決断を飲み込ませる。
結局、利益を削り、社長である自分の給料を減らし、経費を削れば何とかならないかと現場を走り回る。 夜、静まり返った事務所。 デスクに積み上がった「未処理」の書類と、パソコン画面に映る心許ない残高を交互に眺めながら、自分に言い聞かせる。
「今月も、なんとかしのげた。だが、来月はどうなる?」
仕事はある。売上だって、決してゼロではない。 それなのに、なぜか常に手元の現金が足りない。支払日の数日前に冷や汗をかきながら銀行へ電話をし、その場を凌ぐ綱渡りが、もう何年も続いている。
「売上がもっと上がれば」 「銀行がもっと貸してくれれば」
そう信じて走り続けてきたはずだ。だが、心の一部では気づいているはずだ。これは単なる「数字の不足」ではない。もっと根深く、もっと構造的な何かが、自社の土台を蝕んでいるのではないかということに。
「社長待ち」という静かな渋滞
資金繰りに慢性的な不安を抱える会社には、共通する「景色」がある。 それは、「社長が誰よりも忙しい」ということだ。
見積書の最終確認、現場で起きたトラブルの裁定、取引先との細かな条件交渉。 すべてが社長であるあなたの前で止まり、あなたの判断を待っている。 社員は真面目だ。だからこそ「勝手に判断して事故を起こしてはいけない」と、指示を仰ぎに来る。
一見、統制が取れているように見える。だが、その「社長待ち」の時間こそが、会社の血流であるキャッシュをじわじわと停滞させている真犯人だ。
たとえば、現場での判断が社長の確認待ちで一日遅れれば、請求書の発送も遅れる。 そのわずかな遅れが、入金サイクルを翌月へと押し流す。 あるいは、不採算だと分かっている案件の撤退判断を社長が抱え込んでいる間に、外注費や人件費だけが先に流出していく。
判断が社長に一極集中している構造。 それは「社長という巨大なボトルネック」を抱えているのと同じだ。 判断が属人化し、スピードが落ちるということは、すなわち、資金の手当てがすべて「後追い」になることを意味している。
売上はある、仕事もある、それでも金がない
「売上さえあれば、資金繰りは解決する」 これは、多くの中小企業経営者が陥る、最も残酷な錯覚だ。
実際は、売上が伸びるほど、判断すべき項目は増える。 社長がチェックしなければならない書類は倍増し、承認を待つ列はさらに長くなる。 結果として、資金繰りの異常に気づくタイミングは、さらに後ろへと追いやられていく。
経営者の本来の仕事は、「判断のながれを構築し、生産効率をあげさせること」だ。 しかし、現実はどうだろうか。報連相ができておらず、次から次へと持ち込まれる案件を捌くだけで一日が終わる。 資金繰り表を眺めるのは、すべての業務が終わった深夜。あるいは、銀行から「残高が足りません」と連絡が来た後だ。
数字を見る時間が、常に「最後」になっている。 これでは、資金繰りが回るはずがない。 資金繰りは「経営判断の結果」を映し出す通知表であって、原因そのものではないからだ。
銀行は「結果」を見ている、あなたは「構造」を見るべきだ
資金繰りが苦しくなると、私たちはつい銀行の顔色を伺ってしまう。 「どう説明すれば貸してくれるか」「金利をどう下げるか」 だが、銀行員が見ているのは、あくまであなたの会社の「過去の判断の積み重ね」としての決算書だ。
彼らは「なぜ現場の判断が遅れているのか」という真実を知らない。 ただ、「この会社はいつも資金がショート気味で、場当たり的な経営をしている」という結果だけを評価に載せる。
問題は、銀行交渉のテクニックにあるのではない。 融資を申し込む前段階、つまり「あなたの会社の中で、どうやって利益が出せる組織にするか」という構造そのものにある。
社長の確認がなければ一歩も進まない業務フロー。 誰も責任を取りたがらないため、最終的にすべてが社長のデスクに積み上がる体質。 この「属人化した経営構造」こそが、キャッシュを食いつぶすブラックホールだ。
誰かが辞めたから資金繰りが悪くなったのではない。 誰か一人が頑張りすぎて、すべての判断を握りしめているから、資金繰りが狂い始めているのだ。
資金繰りの正体は「判断の滞留」
もし、あなたが今、「なぜこんなに働いているのに、お金が残らないのか」と立ち尽くしているのなら。 一度、電卓を置いてみてほしい。 そして、自社の「判断のルート」を俯瞰してみてほしい。
• 現場で完結できるはずの判断を、あなたが奪っていないか?
• 「社長に聞かないと進められない」という状況が、社内の免罪符になっていないか?
• 数字の異変に気づくための仕組みが、あなたの「直感」に依存しすぎていないか?
資金繰りが回らないのは、あなたの能力が足りないからではない。 ましてや、社員が無能だからでもない。
ただ、「すべての判断を社長がしなければならない」というこれまでの構造が、今の事業規模や時代の変化に耐えきれなくなっているだけだ。
数字は正直だ。 判断が滞れば、数字は悪くなる。 判断を分散し、流れを整えれば、数字は自ずと呼吸を始める。
資金繰りを立て直すために必要なのは、不眠不休の努力ではなく、「自分がいなくても判断が回る仕組み」へと舵を切る勇気だ。
最後に
資金繰りが苦しいという叫びは、会社という組織からの「今の構造ではこれ以上進めない」という悲鳴である。
資金繰りを立て直す第一歩は、通帳の数字を睨みつけることではない。 ましてや、気合で人を変えようとすることでもない。 自社の「組織や業務フロー」を見直し、どこで流れが止まっているのかを直視することだ。
あなたの会社では今、どこで詰まっているだろうか。 その詰まりを解消することこそが、どんな融資よりも確実に、あなたの会社の血流を蘇らせる。
資金繰りを立て直す第一歩は、数字を見ることではなく、組織を見直すことです。 人を変えるのではなく、仕組みの淀みを取り除き、自立した組織への一歩を踏み出しませんか。
資金繰りの問題は、表に見える数字よりも、
その前段階にある「判断の流れ」や「経営構造」によって起きています。
私はこれまで、
・社長確認が外れない会社
・後継者や管理職が判断できない会社
・資金繰りが常に後手に回る会社
には、共通した“構造”があることを何度も見てきました。
このテーマについては、
「なぜ社長が判断から降りられないのか」
「どうすれば判断を手放せる構造になるのか」
を、もう少し整理してまとめています。
興味がある方は、こちらをご覧ください。