商の基礎に、社会の一員という社会認識の重要性を強調する近江商人が到達した「三方よし」に代表される経営精神は、現代でも少しも古びてはいません。
企業活動は、何らかの社会施設や自然環境を利用せざるをえないのであり、必然的に公的側面を伴うもの。
その意味で「三方よし」は、企業は公なりという現代の企業認識とも明白な繋がりを持つ、長い歴史に培われた経営精神の精髄であるといえますね。
近江商人の「商売十訓」。ご存知の方もいらっしゃるでしょう。これまた、現代の私たちにたくさんのことを教えてくれますよね。
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- 商売は世のため人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
- 店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何。
- 売り前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる。
- 資金の少なきを憂うるなかれ、信用の足らざるを憂うべし。
- 無理に売るな。客の好む物も売るな。客のためになるものを売れ。
- 良き品を売る事は善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり。
- 紙一枚でも景品はお客を喜ばせる。付けてあげられるものがない時は笑顔を景品にせよ。
- 正札を守れ。値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ。
- 今日の損益を常に考えよ。今日の損益を明らかにしないでは寝につかぬ習慣にせよ。
- 商売には好況・不況はない。いずれにしても儲けねばならぬ。
経営の原点は利益を上げること、キャッシュを残すこと、企業を存続させることにあります。これに異議を唱える人はいないでしょう。
しかし、その根源となるのは「目的がどこにあるのか」に尽きるのではないでしょうか。
人間の「四大幸福」とは、人に愛されること・人に褒められること・人の役に立つこと・人に必要とされること…だそうです。
企業もまた人が作り出し、人の手によって営まれ成り立つ生き物のようなもの。であるならば、自身が営む会社が社会の中で愛され、褒められ、役に立ち、必要とされることがすべての前提となるはずです。
近江商人の生き方・考え方は、商いを成り立たせるために極めて合理的でありながらも、自己中心的なエゴに染まらない人としての温かみに満ちています。
時代・市場・資源・技術…ビジネスの背景が当時とは比較にならない現代においてなお近江商人が手本とされるのは、その根本に人としての有り様を追い求める高尚な思想と行動があるから…ではないでしょうか。
経営とは、現在から未来に向かって進んでいくもの。しかし時には、先達の「大先輩たち」が残してくれた教えに真摯に耳を傾け、己の襟を正すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。