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某大手自動車販売会社から学ぶ―看板を替えても文化は変わらない

世間を騒がせた某大手自動車販売会社は、新しい会社に買収され、社名やロゴを新しくし、新たな経営理念を掲げて、再出発を図ったと報じられました。しかし、社名も変わったにもかかわらず、残念ながら消費者からの厳しい声は止まらず、国からの行政指導も過去の問題に加え、新会社になったにも関わらず、一度指摘が入ったことが報じられています。

「なぜ名前を変えても、また同じ問題が起きるのか?」
多くの人が疑問に思うでしょう。その答えは非常にシンプルです。会社名が変わり、経営理念を掲げ直し、トップが交代したとしても、中で働く社員や組織文化が変わらなければ、同じ問題が繰り返されるのは当然なのです。

看板を掛け替えただけでは、現場の行動や価値観は変わりません。理念や方針をいくら掲げても、日々の業務で社員がそれを体感しなければ、改革は形だけに留まります。口コミに残る「整備で車を雑に扱われた」「本社に苦情を持っていっても無視された」といった声は、単なる偶発的なトラブルではなく、組織文化の根深い問題を映し出しているのです。

現場に根強く残る古い文化

実際、口コミサイトを見ると、多くの利用者が「名前だけ変わって中身は同じ」と感じていることがよくわかります。

例えば、ある利用者はこう語ります。
「車の室内の天井が整備で汚れて返ってきた。丁寧に扱ってもらえると思っていたのに、とても残念だった。」

別の人は、もっと深刻な体験をしています。
「整備の様子をドライブレコーダーで見返したら、車を雑に扱う姿が映っていた。その映像を証拠として本社に持ち込んだのに、無視された。」

また、こんな声もあります。
「査定に出したら、待ち時間の間、ずっと営業され続けた。結局契約するまで帰れない雰囲気で、強引さが変わっていないと感じた。」
「修理をお願いしたが、説明が不十分で不安になった。誠実さが感じられなかった。」

これらは単なる接客の不手際ではありません。顧客を軽視する企業文化が根強く残っている証拠です。社名を変えても、表面的な改革をしても、日常の行動に反映されていなければ意味がありません。

行政指導の対象は「旧会社」と「新会社」

さらに見逃せないのは、こうした不祥事に対して、**前身の旧会社(買収前の大手自動車販売会社)**が国から何度も行政指導を受けていたという事実です。本来なら、国に是正を求められるほどの問題が発覚した時点で、経営層は「会社の体質を根本から改めなければならない」と強い覚悟を持つべきでした。

一方で、買収後に設立された新会社についても「一度は国から指摘を受けた」と報じられています。つまり、看板を掛け替えても、経営理念を作り直しても、根本の文化が変わらなければ、結局は同じように不祥事が表面化するのです。

結局のところ、問題は「何を掲げるか」ではなく「どう変わるか」です。口コミに残された一つひとつの不満は、顧客の単なる愚痴ではなく、会社が直視すべき“警鐘”です。これを軽視し続ける限り、社名を変えようと経営理念を作り直そうと、再び同じ問題が繰り返されるのは時間の問題だと言えるでしょう。

トップがどうあるべきか

では、文化を変えるにはどうすればいいのでしょうか。ここで問われるのは、トップ自身の姿勢です。

新しい社長が「組織文化を変えなければならない」と口で言うことは簡単です。しかし、経営や現場運営の経験が乏しい社長が机の上で部下に指示を飛ばすだけでは、何も変わりません。理念や方針を掲げるだけで、現場での行動や空気に何も反映されなければ、社員にとってそれは単なる“掛け声”に過ぎないのです。

経営トップに求められるのは、現場に足を運び、社員や顧客の声を直接聞き、時には自ら体験して学ぶことです。例えば、整備現場で車の取り扱いや手順を確認したり、営業の接客対応に立ち会ったり、顧客の声を直接受け止めること。こうした“生の体験”があって初めて、社員に対して説得力のある指示や指導ができるのです。

口コミを読むだけで満足するのではなく、そこから「自分は何を変えるべきか」を真剣に考え、改善の行動につなげなければ、文化は決して変わりません。実際に、顧客の声や不満を見ても、「自分には関係ない」と受け流している経営者も少なくありません。しかし、それでは改善のチャンスを完全に失うことになります。

口コミは、単なる顧客の不満ではなく、現場からの生々しい教材です。それを無視して机上の計画だけで進めようとしても、理念や方針は空虚なスローガンとして終わってしまいます。真に文化を変える経営者は、現場で学び、問題の本質を理解し、自ら行動で示す。こうした泥臭い努力の積み重ねが、初めて社員の意識や行動に影響を与え、企業文化を変える原動力になるのです。

大阪の5000人企業からの相談

以前、私のもとに大阪のある大企業から無料相談が寄せられました。社員数は約5000人、近いうちに同じ規模の会社を買収する予定があるとのことです。

相談内容は、一見前向きなものでした。「買収先の社員に、自社の経営理念をどうやって教えたらいいでしょうか?」――確かに理念の浸透は重要ですが、私はすぐに疑問を持ちました。理念を浸透させるには、まず自社の社員が理念を体現していなければならないからです。

そこで、その相談者の会社をネットで調べてみると驚きました。なんと国から3度も業務改善の指摘を受けていたのです。さらに相談者に対し、私が「御社の社長や役員は、仮に部長や課長に対して、何か問題が起こった場合、注意や叱責ができますか?」と尋ねると、相談者は「できません」と答える始末でした。理念を浸透させる以前に、経営者自身が組織を指導する覚悟や権限を持たず、日常的に行動で示すことができていないのです。

つまり、相談者の会社内でさえ、理念が十分に根付いていない状況で、買収先に理念を教えようとしても、空回りする可能性が高いということです。理念の浸透とは口頭で説明するだけでは達成できません。トップ自身が理念を行動で示し、社員が日常で体感することが不可欠です。

このケースは、理念の浸透における順序の重要性を示しています。まず自社で理念を体現し、社員全体に浸透させること。次に、その経験を元に買収先や新規組織に理念を伝える。この順序を飛ばして「理念を教える」だけでは、社員の行動や意識は変わらず、結局は形だけの改革に終わってしまいます。

経営者にとって、この大阪の会社のケースはまさに教訓です。理念を浸透させるとは、単なる掲示や研修ではなく、経営者が覚悟を持ち、現場で汗をかき、必要な指導を躊躇なく行うことを意味するのです。

表面的な改革と本質的な改革

会社の改革には二つの種類があります。

  1. 看板やスローガンを変える表面的な改革
  2. 人と文化を変える本質的な改革

前者は手軽にできます。ロゴを変えたり、経営理念を掲げ直したり、研修やマニュアルを作るだけでも一応「改革した」という形には見えます。しかし、これだけでは社員の行動や意識に変化は生まれません。理念は掲げるだけでは理念ではないのです。

一方、後者の本質的な改革は時間がかかります。泥臭い努力が必要であり、トップ自身が率先して現場に関わることが不可欠です。社員の心を動かすには、行動で示し、繰り返し伝え、時には失敗を共有しながら学ぶことが求められます。これは短期的に成果を求める経営者にとっては面倒に感じられる作業かもしれませんが、文化を根本から変えるためには避けて通れない道です。

口コミに書かれている「車を雑に扱われた」「証拠を持っても本社に無視された」といった声は、単なるミスや一部の社員の問題ではなく、組織文化の延長線上にある出来事です。現場の行動基準や価値観がそのまま顧客対応に表れているのです。だからこそ、社名を変えるだけ、理念を掲げるだけでは解決できません。真の改革とは、社員一人ひとりの意識や行動を変え、文化として定着させることなのです。

さらに言えば、表面的な改革だけを行うと、社員は「経営者の言うことは建前だけ」と認識し、現場での行動は変わらず、同じ問題が再発するリスクが高まります。本質的な改革は時間も労力もかかりますが、企業の持続的成長や顧客信頼の確保には不可欠なのです。

読者への問いかけ

あなたの会社でも、同じようなことはありませんか?

  • 経営理念を掲げているのに、現場はまったく変わっていない。
  • 制度や仕組みを整えても、社員の意識が追いついていない。
  • トップが現場を知らず、机上の指示だけが飛び交っている。

改革とは、「理念を掲げること」ではなく「理念を生きること」です。

締めの一言

看板を変えるのは簡単です。しかし、人と文化を変えるのは難しい。表面的な改革は短期的に成果が見えるかもしれませんが、真の意味で組織を変えることは容易ではありません。社員の意識や行動、価値観に変化を起こすには時間と努力が必要であり、経営者自身が覚悟を持って取り組まなければなりません。

だからこそ、経営者に求められるのは、口先のスローガンではなく、現場に立って学び続ける姿勢と、理念を根付かせるための泥臭い実践です。理念は掲げた瞬間に完成するものではなく、社員一人ひとりの行動や意識に浸透させ、日常業務の中で体感させることで初めて本物となります。

さらに重要なのは、失敗や不満の声を恐れずに受け止めることです。口コミや顧客からの厳しい声、現場での小さな問題は、経営者にとっての教材であり、改善のヒントです。それを無視せず、実際に現場で行動に移し、社員とともに改善を積み重ねることが、文化を変える最大の力になります。

理念の浸透は「ゴール」ではなく、**“旅の始まり”**です。この旅に経営者が自ら足を運び、汗をかき、時には失敗から学ぶ覚悟があるかどうかで、会社の未来は大きく変わります。表面的な改革で一時的な形を整えることはできますが、組織の本質を変えるには、経営者自らが文化の土壌を耕す必要があるのです。

理念を掲げることはスタートラインに立つこと。そこから先、社員とともに行動し、現場で体験し、繰り返し伝えることで初めて理念は根付き、会社全体を強く成長させる力になるのです。

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