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意思決定の権限委譲――なぜ「社長確認」が外れないのか

社長室のデスクで、後継者や管理職から上がってくる報告書に目を通し、最後の一行を書き換える。あるいは、会議の終盤で「最終的には私が判断するけれど」と付け加える。

こうした光景は、多くの中小企業の日常です。社長からすれば、それは責任感であり、会社を守るための最後の砦という自負かもしれません。しかし、その「最後の一筆」が、実は組織の成長を静かに、しかし確実に止めてしまっていることに、多くの方が気づいていながら目を背けています。

「いつまで経っても、うちの幹部は自分で決められない」
「後継者に任せたいが、まだ判断力が足りない」

現場でよく耳にする言葉です。しかし、彼らが判断できないのは、決して能力が不足しているからではありません。むしろ、彼らは非常に優秀で、社長の意向を察する能力が高いからこそ、「あえて決めない」という賢い選択をしています。

組織が動いている会社には、必ず「何のためにやっているのか」と「誰の判断なのか」という境界線が、暗黙のうちにでも共有されています。しかし、社長がすべての決定権を握り続けている組織では、この境界線が常に揺らいでいます。

社長一人の「目的」はあっても、それを共有し、自分事として動く「協力の意思」が育たない。なぜなら、自分たちがどれだけ知恵を絞っても、最後は社長の経験則というブラックボックスの中で結論が上書きされてしまうからです。

想像してみてください。もしあなたが、数日かけて考え抜いた案を持っていき、最後に社長の「感覚」という、言語化されていない物差しでひっくり返されたらどう思うでしょうか。一度ならず二度、三度とそれが続けば、人間は学習します。「自分で決めるのは無駄だ。最後に社長が直すのだから、そこそこにまとめて持っていこう」と。

これが、組織に蔓延する「社長待ち」の正体です。

本来、現場で起きていることの責任を引き受けるのが、管理職の役割です。計画を立て、実行し、その結果を検証して次へ繋げる。この一連のサイクルを自ら回すことで、人は初めて「管理職」としての自覚を持ちます。

しかし、現実にはどうでしょうか。計画の段階で社長の顔色を伺い、実行の途中で社長の横槍が入る。検証の結果が悪ければ「お前のやり方が悪い」と叱責され、良ければ「私の指示通りにしたからだ」と総括される。

これでは、ハンドルの主導権は依然として社長お一人です。管理職はただ、社長が回す大きな車輪の横を必死に走らされているに過ぎません。社長というエンジンが止まった瞬間、この組織の車輪は一歩も前へ進まなくなる。その恐怖を、一番感じているのは社長ご自身ではないでしょうか。

権限委譲が進まない最大の理由は、技術的なスキル不足ではなく、「どこまで決めていいのか」という範囲が、霧の中に隠れていることにあります。
社長の頭の中には、長年の修羅場で培った膨大な判断基準があります。しかし、それは多くの場合、社長自身の直感や「なんとなくの違和感」として処理されており、言葉になっていません。

部下たちは、その見えない境界線を探りながら仕事をしています。地雷を踏まないように、社長の顔色を伺いながら歩く。そんな状態で、果敢な決断などできるはずがありません。失敗したときの責任の所在も曖昧なまま、「最後は社長が判を押したのだから」という逃げ道が、組織全体の当事者意識を希薄にさせていきます。

かつて、ある後継者の方が漏らした言葉が忘れられません。
「私が決めたことでも、社長が横から一言口を出すと、現場の人間は私ではなく社長の顔を見ます。その瞬間、私の権威は消え、ただの伝言係になるんです」

社長が良かれと思って出すアドバイスや修正は、後継者や管理職から「決定する勇気」を奪い取っています。修正する前提で仕事が進む限り、彼らが本気でリスクを背負い、夜も眠れないほど考え抜くことはありません。本当の意味での「判断」とは、その結果がもたらす重圧を一人で引き受けることだからです。

ここで考えたいのは、権限委譲という言葉の真意です。
それは、単に「お前に任せた」と丸投げすることではありません。また、ハンコを預けることでもありません。

本当の権限委譲とは、「判断できる条件を整えること」に尽きます。
社長が何を大事にし、何を許容できないのか。どの程度の損失なら許容範囲で、どのラインを越えたら相談が必要なのか。そうした「物差し」を一つひとつ言語化し、共有していく作業です。

社長の役割は、最後に答えを教える先生であることではなく、彼らが迷わずに走れるための「コースの白線」を引くことではないでしょうか。その白線が明確になって初めて、組織は社長個人の器を超えて動き出します。

もし、あなたの会社で後継者が育っていないと感じるなら、それは彼らの資質の問題ではなく、彼らの判断を奪ってしまう「社長の有能さ」が原因かもしれません。

あなたは、今の状態のまま後継者にバトンタッチしたとして、その後、組織がうまくいくと思いますか。

このブログで触れた「社長確認が外れない構造」は、後継者や管理職の資質ではなく、会社の設計そのものの問題です。権限委譲・意思決定・責任の線引きを、感覚ではなく構造として整理した内容を、以下にまとめています。

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