
「うちの社員は真面目に働いているのに、なぜ利益が出ないんだろう?」
多くの経営者が、こうした疑問やジレンマを抱えています。売上はそれなりにある。社員も毎日しっかり出社している。それでも帳簿の数字を開くたびに、どこか釈然としない赤字の現実が突きつけられる――。
原因を探そうと、業務フローを見直し、会議を重ね、場合によっては外部のコンサルを呼んで指導を仰ぐ。それでも「なぜか利益が残らない」。
この問題は、目に見える数字や行動だけでは本当の答えに辿り着けません。
実はこの「利益が出ない」という現象の背後には、見落とされがちな“経営者側の視点”があります。
つまり、**「どれだけ売るか」や「社員が頑張っているか」ではなく、「会社の仕組みが、利益を生み出す設計になっているか」**という、経営そのものの構造にこそ、根本原因が潜んでいるのです。
そして、さらに見過ごされがちなのが、**経営者自身の「ものの見方」や「言葉の使い方」、さらには「習慣化された判断基準」**です。これらが利益の構造や組織文化に、想像以上に大きな影響を及ぼしていることに気づけていない企業は少なくありません。
本記事では、社員のせいにする前に見直すべき本当の原因と、経営改善の第一歩となる視点の転換について、わかりやすく解説していきます。
あなたの会社の利益を“数字だけ”でなく、“構造と文化”から見直すきっかけになれば幸いです。

1. 利益が出ないのは「社員のせい」なのか?
売上がそこそこあるのに、なぜか利益が残らない――。
そんなとき、経営者はついこう考えてしまいがちです。
「もっと効率よく働けば…」
「指示通りに動いてくれたら…」
「責任感が足りないんじゃないか?」
確かに、社員の生産性やスキル、マインドに課題があることもあるでしょう。
しかし、それを「原因」と断定する前に、ぜひ立ち止まって考えてほしいのです。
社員が本当に“働ける環境”になっているのか?
利益を生み出す“仕組み”が、会社の中に存在しているのか?
なぜなら、社員はあくまで“実務”を担う立場であって、会社の全体設計や戦略を動かすポジションではありません。
言い換えれば、与えられた環境の中で最大限努力している存在であり、その環境の良し悪しを決めるのは経営者である“あなた”なのです。
たとえば、利益が出ていない会社の多くで見られる共通点に「原価が不透明」「価格設定に戦略がない」「生産性に対する評価制度が曖昧」といった、“仕組みの不在”があります。
社員は日々の業務をこなすことに集中しているため、そこに違和感があっても全体構造まで把握するのは難しい。
結局、仕組みの不備が社員の成果を打ち消し、「頑張っているのに、なぜか儲からない」会社が出来上がってしまうのです。
もうひとつ大切な視点は、社員は経営者の「言動」を見ているという点です。
経営者が「利益が出ないのは社員のせいだ」と口にしていれば、社員は「責任転嫁をする上司」と受け取ります。すると、自分を守るための思考が働き、挑戦や創造的な提案が出なくなってしまう。これは、組織文化にとって致命的です。
本当に利益を出したいなら、まず見るべきは「社員」ではなく「仕組み」と「経営者の視点」。
そして、社員が力を発揮できる土壌を整えること――これが、利益体質の企業をつくる第一歩なのです。
2. 経営者の視点が“利益体質”をつくる
社員のせいにする前に見直すべきもの――それは、経営者自身の視点です。
利益が出ない組織には、例外なく「見えていない構造的な問題」が存在します。そして、その多くは現場ではなく、経営者の判断領域にこそ隠れているのです。
たとえば、こんな企業があります。
売上は順調で、一見すると問題のない会社でしたが、帳簿を見れば毎年ギリギリの黒字。社員は文句も言わず働き、残業も多い。それでも利益が残らない。
そこで経営者が、コンサルタントの助言を受け、社内の仕組みを可視化する取り組みに着手しました。すると、いくつもの“ムダ”が浮かび上がってきたのです。
・赤字受注を無意識に繰り返していた
・業務フローに無駄な確認作業や手戻りが多かった
・評価制度と成果が結びついておらず、モチベーションが低かった
これらの“構造的欠陥”は、社員ではなく経営層の責任領域にあります。
問題は「社員ががんばっていない」のではなく、「がんばりが利益に結びつく構造になっていない」ことだったのです。
①経営者の視点とは、「構造を設計する力」
経営者に求められるのは、“経営の土台”を整える視点です。
「商品をどう売るか」「価格をどう設定するか」などのマーケティング視点に加え、
「どの業務が無駄なのか」「どこに人が余っているのか」「利益はどこで生まれ、どこで消えているのか」――こういった構造思考が必要です。
これは、現場を任されている社員には見えにくい領域。
だからこそ経営者が、少し高い場所から“全体最適”を考え、組織の流れ・お金の流れ・人の流れを見渡す必要があるのです。
②利益は「視点」が変わると自然に生まれる
利益を出すのに必要なのは、「社員をもっと働かせること」ではありません。
働いているエネルギーを利益に変換できる“器”をつくることなのです。
その器こそが、経営者の視点で設計される「仕組み」なのです。
社員の動きやすさ、成果が出るまでのスピード、利益が残るルールや価格設計――
これらを最適化すれば、社員の働きは変わらずとも、利益が変わっていくことは珍しくありません。
つまり、視点を変えれば、結果も変わるのです。
それは、社員にムチを打つことではなく、社員が“成果を出しやすい土台”を整えてあげることに他なりません。
3. 経営者が整えるべき“仕組みのポイント”
ここまでの話でお伝えしたように、「社員ががんばっているのに利益が出ない」原因は、“仕組み”が整っていないことにあります。では、経営者は具体的にどの部分を整備すればよいのでしょうか?
ここでは、特に重要な3つの仕組みのポイントを紹介します。
① 利益を生み出す「業務の流れ」を見える化する
最初に取り組むべきは、業務の流れを見える化することです。
日々の仕事が、どのように利益に結びついているのか?
どこに無駄があり、どこでお金が漏れているのか?
これを把握せずに「もっとがんばれ」と言っても、社員の努力は空回りするだけです。
チェックポイント:
- 受注~納品までのプロセスに「手戻り」や「二度手間」はないか?
- 一人に業務が集中して属人化していないか?
- 赤字受注や値引きが常態化していないか?
業務フローを書き出して、利益に直結しない動きがないかを洗い出しましょう。
多くの企業では、この“ムダ”が見える化されただけで、利益が大きく改善することがあります。
② 「評価制度」が社員の行動と連動しているか
次に見直すべきは、評価制度と行動の一致です。
社員が「頑張っているのに評価されない」と感じている組織では、やる気も成果も続きません。
経営者の意図やビジョンが社員に伝わっていても、
その方向に動いた人が正しく報われなければ、組織はバラバラに動き始めます。
チェックポイント:
- 評価基準は“結果”だけでなく“プロセス”も反映されているか?
- 給与や昇進が、会社の方針とリンクしているか?
- 管理職が「評価できる目」を持っているか?
制度だけ作っても意味がありません。
評価は「伝える・整える・見直す」の3点セットで動かしてこそ、社員の成長と利益に繋がるのです。
③ 「数字」が社員と共有されているか
「数字は経営者のもの」と思っていませんか?
もちろんすべてを公開する必要はありませんが、社員が自分の仕事がどのように利益に影響しているかを理解していないと、改善のしようがないのです。
チェックポイント:
- 部門別の損益や目標数値は、社員に明確に伝わっているか?
- 日報・会議で「数字の意味」を共有しているか?
- 数字に対して、社員から意見や提案が出る土壌はあるか?
数字を共有することで、社員にも“経営感覚”が育っていきます。
それはやがて、組織全体の利益意識につながっていくのです。
最後に――「経営は社員のせいにしない人が成功する」
どんな企業でも、うまくいかないときに「誰かのせい」にしたくなる瞬間があります。
特に経営者という立場であれば、社員の言動に苛立ちを感じたり、「あいつがちゃんとやっていれば…」と嘆きたくなる場面もあるでしょう。
しかし、会社の方向性を決めるのは、常に“経営者自身”の判断と姿勢です。
社員は、与えられた環境のなかで、見える情報の範囲でしか動けません。
だからこそ、組織がうまく機能しないときこそ、「自分が整えるべき仕組みは何か?」と問い直す勇気が必要なのです。