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企業文化なき組織の末路――中途採用偏重の落とし穴

ある企業を訪問したときのこと。
第一印象は「なんだか空気がバラバラだな」だった。社員同士の距離感がどこかよそよそしく、かと思えば馴れ合いのような空気もある。活気がないのに、誰かが何かを変えようという気配もない。
聞けば、社員のほとんどが中途採用で構成されており、創業当時からいるプロパー社員はわずか数人だという。

しかし、驚いたのはそれだけではなかった。
中途入社した社員たちの会話に耳を傾けると、頻繁に出てくるのが「前の会社では……」「自分の前職では……」という言葉。
つまり、彼らは今の会社に心から馴染んでいるわけではない。
まるで「一時的に所属している場」であるかのように、過去のやり方や文化を持ち出しては、自分の正当性を主張しているようにさえ見えた。

この会社は、即戦力を求めて中途採用を繰り返してきた。
だが、結果として利益は思うように出ていない。若手社員は育たず、むしろ「この会社で頑張っても意味がない」と感じて去っていく。残るのは年齢を重ねた中途社員ばかり。組織の平均年齢は上がり、やる気も連携もなく、表面的な協調だけが存在する。
しかもその協調とは、「誰かの背中を押す」ものではなく、「誰も波風を立てないようにする」ための消極的な空気にすぎない。

では、なぜこのようなことが起きるのか?

文化なき組織は、個人の寄せ集めに過ぎない

会社にとって「人を集めること」は必要不可欠だ。しかし、それ以上に大切なのは「人が集まる理由」だ。
その理由こそが“企業文化”である。

企業文化とは、会社が大切にしている価値観、行動の美徳、言葉では説明しきれない空気感のようなもの。
それは創業者の想いであり、歴史の中で育まれた行動様式であり、組織を一つに束ねる“見えない背骨”である。

この文化がない組織に人が集まると、どうなるか。
社員はそれぞれ異なる価値観を持ち込み、誰もが自分の正しさを主張し始める。前職のやり方を持ち出し、他者の仕事を否定し、組織内に不協和音が生まれる。
これは“多様性”ではない。単なる「バラバラ」である。

中途社員が悪いのではない。文化がないことが問題なのだ。
文化があれば、そこに“共通のものさし”ができる。
「この会社ではこういう考え方を大事にする」「この行動が良しとされる」という共通認識があれば、たとえ背景が異なる人材でも、自然と調和が生まれる。

だが、それがないと――誰もが“自分流”で動くことになり、組織は「集団」ではなく「群れ」になる。

プロパー社員の不在がもたらす文化の空白――“育成”を怠ったツケ

もう一つ、大きな問題は、プロパー社員の少なさだ。
プロパー社員とは、会社の価値観の中で育ち、組織の文化を理解し、それを体現できる存在である。
彼らは単なる「古株」ではない。“社風の担い手”であり、会社の根っこを支える人たちだ。

特に重要なのは、彼らが「企業文化の通訳者」として機能する点にある。
たとえば、新しく中途で入ってきた社員に対して、「うちではこの考え方を大事にしてる」「この判断は、会社の文化としてこうだからこうしてる」と、組織に根付いた行動様式や価値観を言葉にして伝える。
それによって、新たに入ってきた人も早く会社に馴染み、チームとしての一体感が生まれる。

しかし、そうしたプロパー社員がいなければどうなるか。
入社してきた人たちは、誰を手本にしていいかわからない。どこに基準があるのかも不明確だ。
その結果、自分の過去の経験――つまり前職のやり方や価値観を基準にして判断し始める。

こうして組織の中には、いくつもの“価値観の島”ができる。
本来なら、会社として統一された「考え方の土台」があるべきだが、それがない。
社員は手探りで仕事を進め、誰かと衝突し、また自分を正当化する。
やがてそれは、協力なき「個人商店の集合体」となる。

だが、ここで見逃してはならないのは、「プロパー社員が少ない」ことは、結果に過ぎないという点だ。
本質的な問題は、新卒や若手を入れて“育ててこなかった”ことにある。

「親方の集まり」になってしまった会社の末路――文化を育てなかった組織の行き着く先

この会社の姿は、まさに「親方の集まり」だった。

社員一人ひとりが、自分のやり方、自分の価値観、自分の正義で動いている。
「うちの会社ではこうする」がない。
あるのは、「俺の経験ではこうだった」「前の会社ではこうしてた」という、過去の個人的なルールだけだ。

もちろん、過去の経験が豊富で、優れたノウハウを持っている人もいる。
だが、それは“個”の中に閉じていて、組織として共有されることはない。
「教える」という文化がなく、「任せる」という言葉の裏に、“放置”が隠れている。

しかも、そんな“親方”たちは、互いに干渉しない。
協力するわけでもなく、かといって本気でぶつかるわけでもない。
むしろ、表面上は穏やかに見える。衝突を避け、距離をとり、日々の業務を“それぞれが”黙々とこなしている。

だが、その空気感こそが、若手にとっては地獄だ。

若手にとっての“親方集団”――拠り所なき組織の中で

若手社員は、会社の未来を担う存在である。
にもかかわらず、その若手が何を学び、どう振る舞えばいいか分からない状態に置かれている。
なぜなら、手本となる先輩がいないからだ。
いや、正確に言えば、「参考になる人」はいるかもしれない。だが、誰を信じればいいのかが分からない。

Aさんは「これはこうやるべき」と言う。
Bさんは「それはおかしい、こっちのやり方が正しい」と言う。
どちらも経験豊富で正しそうに見える。
だが、二人のやり方は全く違っていて、しかもその違いについて議論がなされるわけでもない。
新人は混乱する。

しかも、相談しようにも、誰も本気で面倒を見ようとはしない。
「それぐらい自分で考えろ」「俺のときはそうやって乗り越えた」
そう言って、突き放す。

若手はやがて、こう思うようになる。
「この会社には、学ぶ文化がない」
「誰に聞いてもバラバラで、正解がない」
「いちばんいいのは、できるだけ関わらず、静かにしていることだ」

そうして、やる気を失い、心を閉ざし、会社を去っていく。

人が育たず、会社は老化していく

若手が辞めることで、会社はさらに年齢構成が偏っていく。
ベテランばかりが残り、それぞれが“自分のやり方”を変えようとしない。
それはやがて、変化への抵抗勢力を強化し、組織の老化を早めていく。

どんな会社にも、次世代を担う人材は必要だ。
だがその人材は、放っておいても育つわけではない。
“育つ土壌”と“育てる文化”があって初めて、人は会社の中で根を張り、幹となり、やがて文化の継承者になっていく。

だが「親方の集まり」には、その土壌がない。
それぞれが自分流で動くことが当たり前になっているから、共通言語がない。
だから、誰も会社の理念や価値観を“語れない”。
理念がポスターの中だけにあり、現場には存在しない。

これは、非常に危険な兆候である。

組織を再生するには、「文化」を再構築せよ

「うちの会社は、もう手遅れかもしれない」
そう語る経営者は少なくない。社員はバラバラ、若手は辞めていく、ベテランは口ばかりで動かない。そんな崩れかけた組織の姿に、どこから手をつければいいのか分からず、焦りと諦めを感じている。だが、結論から言えば、どんな組織でも再生は可能だ。必要なのは、スキルでもノウハウでもない。まずは、経営者自身の“覚悟”である。

会社が再生できない最大の理由は、「文化の空白」にある。文化とは、理念やビジョンといった美しい言葉を掲げることではない。現場の隅々で共有され、日々の行動や判断に自然とにじみ出る“当たり前”の価値観のことだ。「この会社ではこうする」「こうあるべきだ」という無意識の“ものさし”。それがなければ、社員たちは自分の判断基準でバラバラに動き始め、組織としての一体感は失われていく。

文化が失われた会社では、いくら優れた人材を採用しても、機能しない。それどころか、能力の高い人ほど、自分のやり方で動きたがるため、余計に組織は分裂していく。そして、社員同士の信頼関係は築かれず、協力ではなく衝突や無関心が広がる。空気は重くなり、若手は何を信じて動けばいいのか分からず、やる気をなくしていく。

この“文化の不在”を立て直すには、まず経営者自身が明確な文化の軸を持たなければならない。「うちの会社は、こういう考え方を大事にする」「こんな人と一緒に働きたい」「この仕事の目的は、何のためか」。こうした価値観を、自分の言葉で語り続けること。書いて掲げるのではなく、現場で、社員との会話の中で、何度でも繰り返し伝えていく。耳に残るほど、しつこく、ぶれずに、言い続ける。

そして何よりも重要なのは、経営者自身がそれを実践することだ。文化は言葉だけでは根づかない。むしろ、経営者が実践している姿がなければ、いくら正しいことを言っても、誰の心にも響かない。「うちの社長が言うなら、そうしよう」と思ってもらえるかどうかは、日々の言動にかかっている。経営者が文化を体現していない会社では、どんなに良いスローガンを掲げても、空疎な言葉でしかない。

また、文化を再生するには、時間も人材も必要になる。一人でできることではない。だからこそ、社内に文化を守り、伝えていける人材を育てていかなければならない。すでにいるプロパー社員を見直し、再評価すること。中途社員に埋もれてしまっている可能性のある“会社の魂”を持つ人たちに光を当て、彼らが自信を持って行動できるように支援する。そのうえで、次の世代――これからの若手に、文化を受け継がせていく流れをつくることが大切だ。

文化とは、短期でつくられるものではない。だが、積み上げていけば、確実に組織を変える力を持っている。数字や成果にはすぐに現れないが、職場の空気が変わり、言葉が変わり、人の行動が変わっていく。そうした変化の積み重ねが、やがて企業の命運を左右する大きな力となる。

だからこそ、あきらめてはいけない。会社を変えたいと本気で思うなら、文化を再構築することに本気になるしかない。そして、その先頭に立つのは、経営者自身以外にいない。

まとめ

人を集める前に、文化を育てよ。
即戦力を集める前に、共通の価値観を築け。
利益とは、文化に共感した人たちが一つになって働いた“結果”としてついてくる。

文化なき組織は、いずれバラバラになり、立ち行かなくなる。
だが、文化ある組織は、人が辞めても育ち、崩れても立ち直る。

会社の未来を決めるのは、「誰を採用するか」ではなく、「どんな文化を育てるか」である。

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